忘れ得ぬことども

七草がゆとアズキがゆ

 年明け(2009年)以来、あれよあれよという間に成人の日も過ぎてしまい、正月ムードも薄れてきました。
 わが家も、明後日の15日、アズキがゆを食して、正月気分終了ということになります。

 7日の七草がゆというのは、結婚前から食べていましたが、15日のアズキがゆは、マダムに教わった風習です。七草がゆを食べたらアズキがゆも食べなければいけないのだそうで、そんなことは私はちっとも知りませんでした。
 そもそも私の実家は、季節の風物ということに無頓着でして、七草がゆも実家で食べたことはありません。ひとり暮らしを始めてから、その時期になるとスーパーマーケットで「七草セット」なるものが売られていることを知り、試しに作って食べてみたのが、そのまま毎年の習慣になってしまったまでのことです。実家に行った時に、最近は7日に七草がゆを食べていると言うと、母に
 「あんなマズいもの、よく食べる気になるね」
 と言われたものでした。
 私は別にマズいものという気はしないのですが、思うに母はマズい調理をした七草がゆしか食べたことがなかったのでしょう。
 私が作る際は、七草を塩ゆでにして刻み(スズナ《=カブ》とスズシロ《=ダイコン》は根っこ──つまりカブとダイコンですが──も一緒に入っているので、これもまとめて刻みます)、土鍋で炊いたおかゆに混ぜ込むわけですが、ここでダシの素を少々加えるのが、秘訣と言えばまあ秘訣です。「ほんだし」などで構いません。それから、正月のお餅が残っていれば放り込みます。塩ゆでにする時にあまり茹ですぎないのと、茹で上げたら一旦流水にしばらくさらすのがポイントでしょうか。野草の緑色が眼にも鮮やかな、おいしい七草がゆになります。

 春の七草は、本当は自分で摘んでくるのが良いのでしょうが、現代では野原も少なくなって、大変な作業になってしまいます。
 そもそも、新暦のこの季節では、
 せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ
 というような野草が生えているものかどうか。旧暦の1月7日なら、今の2月上旬ですから、早春の野草もそろそろ姿を見せ始めそうですが。
 冬の間はどうしても青いものが不足しがちなので、昔はこういう野草を食べて補ったのでしょう。正月にうまいものを食べ過ぎるので7日目におかゆでおなかを休める、というのは後付けの理屈ではないかと思います。
 野草というのは有毒なものも多いそうです。その点この七種類は、中毒するおそれはまず無さそうで、食べられる野草の種類を五七調で調子よく謳い上げ、それにその七種類をまとめておかゆに入れて食べることで、生きてゆく知恵を残してくれた先人たちには頭が下がります。
 豊かな日本とはいえ、いつまた食糧が不足して人々が飢える時が来ないとも限りません。野草を食べて飢えをしのぐはめになった時、私たちは先祖の人々の知恵に感謝することになるでしょう。
 もっとも、現代人がこの七草を見分けられるかどうか心許ないものがあります。私にしても、ナズナがペンペン草のことで、ハコベラはハコベのことであの葉っぱの広い草か、というあたりまでしか確信が持てません。カブとダイコンであるスズナ・スズシロすら、野に生えている時に見分けられる自信がないのでした。セリもあやしいものです。ゴギョウとホトケノザに至ってはどんな形なのか想像もつきません。パックに印刷されている七草の姿を、中身と照らし合わせようとしたこともあるのですが、なんだかよくわかりませんでした。これでは食糧難の時に生き延びられるか甚だ微妙です。

 アズキがゆのほうの由来はよく知りませんでしたが、調べてみると平安時代の「延喜式」に、正月15日に皇族たちに「七種粥」を、朝廷の諸臣に「小豆粥」を供した、という記述があるそうです。当時は七草がゆも15日だったようですが、古来なんとなくセットで考えられていたのかもしれません。もともとは中国の邪気祓いの儀式から来ているようです。
 いろいろ検索してみると、アズキがゆについての記述はいろいろ見つかりましたが、面白いことに気づきました。15日のアズキがゆは、自分の育った土地のローカルな風習だと思っている人が多いのです。

 ──私の田舎の○○では、1月15日にアズキがゆを食べる風習があって……

 というような書き方をしているブログなどがいくつも見出されました。いずれも、全国的なこととは思っていないようです。
 マダムによると、7日に七草がゆ・15日にアズキがゆというのは、両方食べるか、もしくはどちらも食べないかにすべきであって、片方だけというのはいけないんだそうです。上記のブログなどから判断すると、15日のアズキがゆのことが知られていないと思っている人が多そうですし、実際七草がゆだけというご家庭も多いのではないでしょうか。はたして15日のアズキがゆというのは、どのくらいローカルな風習なのでしょう。
 ともあれ、明後日はアズキがゆを作ることになりそうです。茹でアズキも買ってありますが、これは甘みがついているので、お汁粉みたいなおかゆになると思われます。本当は塩味にするべきであるようですが、まあそこは目をつぶりましょう。   

(2009.1.13.)

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