II
合唱編曲集『アニソン・フラッシュ!』が上梓されました。 表紙やレイアウトにはタッチしていないのですが、カワイ出版の混声版・女声版・男声版それぞれのシンボルカラーである緑・赤・青のベタに近いデザインになっており、見ようによっては少々暑苦しいきらいがないでもありません。ぱっと見、同じデザインの色替わりに過ぎないように思えますが、よく見ると男声版で星型をあしらったところが女声版ではハートマークになっていたりして、微妙に違います。芸の細かいことだと思わず苦笑しました。 『アニソン・フラッシュ!』というタイトルも、私がつけたわけではなく、編集部による命名です。三つの版に共通曲として含まれている「キューティーハニー」のヒロインの変身パスワード「ハニー・フラッシュ!」にひっかけた感じですが、わりとどのようにでも受けとられそうな語感でもあって、今後いろいろ展開しやすそうです。例えば将来、アニメソングではなくて特撮もののソングブックを作ろうとした場合も、「特撮フラッシュ!」とでもすれば、同じようなシリーズであることが一目瞭然となるわけです。そういえば混声版に入っている「キン肉マン」の決め技も「キン肉フラッシュ」でした(最初の頃だけ。「キン肉マン」がヒーローギャグマンガから超人プロレスマンガになってゆくにつれ、光線技みたいなものは一切使われなくなりました)。 三冊同時刊行ということで、本の最後についている刊行作品目録も急に項目が増え、欄が広くなった気がします。編曲ものばかり多くなるのは私としては痛し痒しというところですが、ともかく出版物が増えればそれだけ名前も売れるわけですから、素直にありがたいと思うべきでしょう。同じように作曲家を名乗っていても、結局一冊の楽譜も出版できずに終わってしまう人だって少なくないのですから。
前にも書きましたが、一応内容を列挙しておきます。
《混声版》 メドレー・宇宙戦艦ヤマト(「宇宙戦艦ヤマト」「無限に広がる大宇宙」「真赤なスカーフ」) キン肉マンGo
Fight!(キン肉マン) 勇気100%(忍たま乱太郎) キューティーハニー
《女声版》 メドレー・乙女七変化(「ひみつのアッコちゃん」「花の子ルンルン」「ムーンライト伝説(美少女戦士セーラームーン)」) 魔法使いサリー キャンディ・キャンディ CAT'S
EYE キューティーハニー
《男声版》 メドレー・勇者たちよ(「デビルマンのうた」「バビル2世」「ガッチャマンの歌」) マジンガーZ あしたのジョー 銀河鉄道999 キューティーハニー
メドレーの他単発4曲、という形に統一したかったのですが、混声版の特に「勇気100%」が、10分ばかりの帯番組の主題歌にしてはむちゃくちゃ長くて、12ページも要してしまったため、混声版のみ曲数を減らさざるを得ませんでした。キン肉マンもけっこう長かったしね。 キューティーハニーが全部入っている事情も前に書きました。編集部のH氏が強硬に推したのです。 「これ混声や男声に入れたら、ぜぇ〜ったいウケるってぇ」 その場にいたわけではありませんけれども、会議の席でH氏がそんな風に力説している様子が何やら眼に浮かぶようです。 基本的にはどれもテレビ番組のオープニングですが、「銀河鉄道999」だけはゴダイゴによる映画版の主題歌です。平尾昌晃氏によるテレビ版オープニングもなかなかの名曲なのですが、絶版になったサニーサイドミュージック版の『アニメヒーロー・ヒロイン伝説』に載せていたものを転用させて貰ったためにそういうことになりました。多少なりとも作業負担を軽減したかったのと、サニーサイド版の「銀河鉄道999」については私のもとにけっこう問い合わせが多かったためでもあります。カワイとしては、他社の掲載物をそのまま転載することにだいぶ難色を示していましたので、ほんのちょっとだけ手を加えることで納得して貰いました。
打ち合わせでは、他にもいろんな案が出ては流れていました。メドレーにしても、マジンガー三部作(マジンガーZ・グレートマジンガー・グレンダイザー)とかドラゴンボール三部作(無印・Z・GT)のように、番組としてもシリーズになっていたものをまとめるという案があり、現に最初の打ち合わせではかなり有望だったのですが、編集会議ではねられたりしていました。 何しろ1万2千曲以上というアニメソングの海の中から、せいぜい20曲ほどを選ばなければならないわけですから、一連の作業のうち何が大変だったと言って、選曲がいちばん厄介だったような気がします。編集のM嬢と向かい合って、 「……どうしましょうかねえ……」 と何回口にしたことか。 曲集そのものをシリーズ化できるのであれば、集ごとにテーマを設けるなど、いろいろやりようもあったのですが、第2集・第3集と続けられるかどうかは、その都度の売り上げ次第ですので、遠大な構想を立ててやってゆくというのもなかなか困難です。 とにかく今回の本が売れてくれないことには、後につなげることもできません。『TOKYO物語』並みとは言わないまでも、いろんな合唱団が歌ってくれることを祈ります。
ただ懸念は、アマチュア合唱団の大きな部分を占めるシルバーコーラスに全くアピールしないのではないかという点です。 世界名作劇場のようなアニメであれば、今の60〜70代の人たちでも、子供が小さい頃に一緒に見ていたというケースが少なくないと思います。「サザエさん」「一休さん」「ドラえもん」「ちびまる子ちゃん」などの長寿アニメ、「良質」アニメも大丈夫でしょう。しかし、今回選んだような番組は、この年代はほとんど知らないのではありますまいか。 50代もまだ怪しいところです。50代に入って間もない清水雅彦さんは、カラオケで「海のトリトン」や「タイガーマスク」を歌ったことはありますが、今回掲載した曲はほとんどご存じなかったようです。まあこの年代は「人それぞれ」という感じでしょうか。 ドンピシャなターゲットは30〜40代です。先日46歳になった私が小中学生だった頃の番組が大半です。「キン肉マン」は高校〜大学時代だったと思いますが、10歳ばかり年下の従弟がいわゆる「キン消し(キン肉マン消しゴム)」を夢中になって集めていたのを憶えています。「セーラームーン」はもう少し後でしたが、この辺からそろそろ「大きいお友達」がアニメ市場に参入してきておりますので、私と同年代あたりでも知っている人はかなり多いはずです。 問題は、この年代の合唱人口がどのくらい居るかということで、各地の合唱祭などの様子を見る限り、さほど大勢力を占めてはいないような気がするのです。みんな仕事や子育てでいちばん忙しい時期であり、よほど熱心な人でないと合唱を続けては居られないように思えます。女声版に関しては、小中学校あたりのPTAコーラスくらいがメインターゲットと言えるでしょうが、混声版・男声版はどんなものでしょうか。 20代になると、一部の番組を除いてはリアルタイムでは知らないと思われます。まあ最近はDVDボックスなどがわりに手軽に買えるようになりましたし、ケーブルテレビでも昔のアニメがよく放映されておりますので、接する機会はあるでしょうが、われわれのようなリアルタイム世代の、「別に自分は番組を見てはいなかったけれども、友達が話題にしていたのでなんとなく憶えている」というような、共通の感覚というものは望むべくもありません。少しマニアックなメンバーが主導してくれることを祈るばかりです。大学の合唱団などなら、ある程度歌ってくれるかもしれません。 さらに下の高校生くらいになると、これはもう、指導の先生がこの手の歌を好きであって欲しいと願うしかなさそうです。 いずれにしても、50〜60代以上にアピールしそうにない合唱本がどのくらい売れるか、しばらく様子を見てみないとわかりません。一応、男声版を使ってみたいという話はひとつ受けていますが、やはり千くらいのオーダーで売れてくれないと、続刊は難しいように思われます。 合唱人の皆さん、どうかよろしく!
(2010.8.30.)
|