忘れ得ぬことども

聖バレンタインデイ考

I

 聖バレンタインデイが、こんなに騒がれるようになったのは、いつ頃からだったんでしょうね。
 私が小学生の頃は、こんなことはなかったような気がします。
 その後、中学・高校と6年間男子校だったので、その間の事情はあんまり知りません。ただ、中2の頃鉛筆描きで描いていた学園マンガの一章に、バレンタインデイネタがありますから、そういう騒ぎになっていることは承知していたと思われます。ただ、自分であまりぴんと来なかったせいか、登場人物たちも意外と醒めておりました(^_^;;
 もちろん、男子校といっても、校外の女の子とつきあっている連中もいたことはいたのですが、私は品行方正な一群に属しておりましたので、当然ながらチョコレートなど貰ったこともなく……
 貰ったかどうかが仲間内で話題になることも、まず無かったと記憶しています。
 一転して、大学は女子学生の方がずっと多い学校へ行ったのですが、はじめて義理チョコなるものを貰った時には、少々惑乱気味でした。
 以来、義理チョコは何度か貰いました。
 私が伴奏していた歌い手の女の子から、手作りのかなり大きいのを貰ったことが一度だけあって、普通なら本気チョコかと思いたくなる感じでしたが、彼女の場合、当時ほとんど同棲状態の彼氏がいましたし、その彼氏の方とも私は親しかったので、勘違いする余地もありませんでした。
 指導している合唱団のおばさま方はよくくれましたが、これはまあご愛敬。
 年末年始頃の、比較的近い時期に、なんらかの労を執った相手から贈られたことが数回。
 ここ4年ほど、女子大で教鞭をとっていましたが、生憎とこの時期はすでに学校は休みに入ってしまっています。だから一度も学生からは貰っておりません。
 まあ、そんなものであって、ほとんどこの風習とは風馬牛です。
 チョコレートを贈るとかいうのは、日本のお菓子会社の陰謀であって、なんの根拠もありません。
 ただ、「ピーナッツ」スヌーピーチャーリー・ブラウンが出てくるマンガ)を読むと、聖バレンタインデイそのものは、アメリカでも盛んに祝われているのがわかります。あちらでは、カードを贈るのが一般的で、場合によってはキャンディなどを添えることもあるようです。で、毎年、山のようにバレンタインカードを貰うスヌーピーを尻目に、チャーリー・ブラウンは空っぽの郵便受けに向かって毒突くのです。
 女の子が男の子に贈るだけではなく、男の子も女の子に贈るようです。聖バレンタインは愛の守護者とされているのですから、片一方ということはないのですね。ただ日本では、まだ女の子の方から愛を告白する習慣が少ないため、一年に一度、おおっぴらにそれができる日ということになってしまったのでしょう。
 当然、ホワイトデイなどは日本独特です。これまた、お菓子会社の陰謀に他なりません。
 最近のカップルは、バレンタインデイにもクリスマス同様、デートして、ホテルで食事をして、食事でないこともして、などという行動をすることが多いようです。日本のありようとしては、男は受け身になる日のはずなのですが、そんなこんなで結局散財させられることになり、案外うんざりしている彼氏たちも多いのではないでしょうか(^o^)

(1998.2.14.)


II

 上の文章を記してからすでに6年が経っておりますから、あらためて聖バレンタインデイについて書いてみようかと思います。

 私が小学生の頃に、バレンタインデイなどがそんなに騒がれていなかったのは確かで、2月14日に私がチョコレートを貰ったことがないのみならず、クラスの男の子たちも、私の知る限り誰も貰っている者はいなかったようです。女の子からチョコレートを贈るということが、もし当時すでにおこなわれていたとしても、高校生とか中学生とかの話であって、小学生にまではその風習は拡まっていなかったと考えるべきでしょう。
 中学・高校と男子校でしたので、もちろんバレンタインのチョコレートなどとは縁がありません。ただ雑誌の記事などから、世間でそういうのが流行っているという知識はありました。それにしても、こう誰も彼もがバレンタインバレンタインと言い出したのは、もう少しあとのことだったように思います。

 はじめてバレンタインのチョコレートというものを貰ったのは、大学2年の時だったように記憶しています。
 その時のことをつらつら思い出してみるに、いわゆる本命チョコではもちろんないにせよ、単純に義理チョコだったわけでもなかったような気がします。確か、その前に私がその子に誕生日プレゼントをあげたので、
お礼です」
と彼女がはっきり言って渡してくれたのではなかったかしら。
 当時の私は、その言葉を、

 ──チョコレートはあげるけど、これはあくまで誕生日プレゼントのお礼なのであって、アナタが好きとかそんなことじゃないんだから、誤解しないでね♪

 と解釈し、がっかりしたのでしたが、いま考えると、お返しをよこすからにはまるっきり好意がなかったというわけでもなさそうで、その後の持って行きようによっては彼女とつき合うこともできたのではありますまいか。20年近く前の話ながら、早々と諦めてしまった自分に地団駄踏む想いです。

 その後、義理チョコ以上のものを貰った記憶はありません。女子大に勤めていた時分も、2月中旬ともなると授業は終わっており、非常勤講師であった私は試験が済んでしまうと学校に行く用事もありませんでしたから、学生から貰うことはなかったわけです。
 同年代や歳下の女性から貰うことはついぞなく、ほとんどは指導したり伴奏したりしていた合唱団のオバサマ方などからいただいております。バレンタインデイは、私に関してはそういうものなのだという認識に到達しています。もちろん、なんにも貰わなかった年も数多くあります。
 周囲にそんな話(貰った貰わない、あげたあげなかった)で盛り上がる仲間が居ないせいもあって、正直なところ不感症になっているようです。

 モナリザ・もういらない子さんが「お客様の声」でご指摘下さいましたが、女性は、誰かにあげるあげないという以前に、さまざまな意匠の品を選ぶ・買うという段階ですでにかなり夢中になるもののようです。ラジオのパーソナリティの女の子が言っていたのですが、この時期、いろんなチョコレートが「試食」できるようになっている売り場が多いそうで、その点も女性にとっては嬉しいことなのでしょう。バレンタインデイとチョコレートという、もともとはお菓子会社の仕組んだ陰謀が、これほどまでにヒットしたのは、女性の甘い物好き本能およびお買い物好き本能をもろに直撃したからに違いありません。
 これに較べて一ヶ月後のホワイトデイが、お菓子会社の必死の誘導にもかかわらず意外と盛り上がらないのは、おそらく男には甘い物好き本能もお買い物好き本能も乏しいからと思われます。バレンタインデイのお返しをしなければならないからと、渋々買っている男がほとんどで、あれこれと品物を見較べ食べ較べて選ぶなんてことはまずなく、そこらに出ている品をすばやく手にとって、禁制品ででもあるかのようにこっそりレジに持って行くというケースが多いのではないでしょうか。もちろん、バレンタイン前の女の子たちのように、友達同士で店に行ってわいわい言いながらチョコを買う、などという光景はまずあり得ません。女の子たちの支持でなんとか続いているものの、大多数の男は

 ──ホワイトデイなんぞ、消えてなくなってしまえ。

 と感じているに違いなく、営業的にはあまり成功しなかった企画であるような気がします。

 さてさて女性の皆さん、想い人にプレゼントすることはできましたか?
 男性の皆さん、意中の人からは何か貰えましたか?
 今宵、世の中は悲喜こもごもだろうと思うのですが、それにしてもこんな風習はいつまで続くんでしょうね。

(2004.2.14.)

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