MIC's Convenience
第3回オフ会報告(その2)



男4人の動物園


 4月29日は朝から快晴で、散策日和と言える天候でした。これに先立つ数日、むやみと気温の高い日が続いて、上着を着て歩くのがしんどいくらいでしたが、この日は多少しのぎやすい空気にもなり、まさに申し分のない日です。
 待ち合わせは13時でしたので、私は10分前くらいに着くように家を出ました。
 上野駅に着いた途端、待ち合わせを13時などに設定したことを後悔しました。快晴の休日の上野駅、13時に待ち合わせをする人間が世の中にどれほど多いか、驚くべきものがあります。1分と同じ場所に静止していられないような人、人、人の波です。
 私が人混みでもわりと目立つ体格をしているからいいようなものの、そうでなかったら、うろ憶えの人との待ち合わせなどとても覚束ないのではないかと思うほどでした。
 幸い、改札を出るとすぐ、phaos先生が声をかけてくれました。すでに10分ばかり前から待っているとのこと。

 「ずいぶんお早いですねえ」
「なんせ遠いもんで、一本の差が大きくなってしまうんですよ。この次の電車に乗ってたら間に合わない、というわけで」

 phaos先生とは一昨年の新宿ミニオフで一度お会いしていますが、それっきりなので、わかるかどうか若干不安でしたけれども、これでひと安心。だーこちゃんとは何度も会っていますから心配ありません。問題はラビンヤヂアさんで、彼は前に私が「ダイアの涙」という小オペラをやった時に見に来てくれましたから、あちらからは舞台上の私をとっくり見ているわけですが、私の方からは終演後にちょっとお会いしただけですので、認識できるかどうか少々心許ない気がいたします。確かラビンヤヂアさんの方も私と同じくわりに目立つ体格をしていた記憶があるものの、なんとなくあやふやです。
 13時が近づくにつれ、さらに人混みはすごいことになってきました。すこしくらい目立つ体格でも、これでは識別できないのではないかと思えるほどでした。私は眼を皿のようにして改札口を見つめていました。
 ところが、13時になっても、だーこちゃんとラビンヤヂアさんは姿を現しません。実はだーこちゃんは何度か、待ち合わせ大遅刻の前科があるので、ちょっと心配になりました。しかしラビンヤヂアさんの方はどうなんだろう……
 こんな状態になると、やはり私も携帯電話を持つべきだったかと思います。絶対持つものかと意地になっているわけでもないのですが、なんだか世間であれだけ普及してしまうと、今まで持ってこなかったのを今さら持つのが気恥ずかしく感じられるのでした。しかしオフ会を企画するくらいなら、携帯電話くらい持っていないと話にならないようです。前回の頃(4年前)はまだそれほどにも思わなかったのですが……
 13時に待ち合わせをしていた厖大な人々が散り始め、改札前の見通しがかなりよくなった頃、だーこちゃん登場。下の出口の方へ行ってしまい迷っていたとか。告知ページにわざわざ「プラットフォームから階段を上った方」と書いておいたのになあ。
 仕事をひとつ済ませてきたとかで、重そうなノートパソコンを担いでいます。下の方に行ってしまったのならそちらにコインロッカーがあったのに、持ったまま戻ってきたらしい。まあもっとも、迷っている時というのはそういう智慧が働かないものですけどね。公園口の方にはしかるべき荷物預かりがないので、さてどうしたものか。
 それにしてもラビンヤヂアさんがまだ現れません。最近バイクに凝り始めたそうなので、バイクで来るつもりになって途中で道がわからなくなっているのではないか、いやこの前あわや大事故になりかねない後輪ロックが起こったそうだから今度こそ事故にあったのではあるまいか、などとあれこれ考えました。

 「仕方がない、二次集合もあることだし、30分まで待って来なかったら動きましょう」

 phaos先生とだーこちゃんに私がそう提案し、13時30分待ち合わせとおぼしき人々が少しずつ改札前にたまり始めた頃、ラビンヤヂアさんが息せき切って登場。眠かったのと電車に乗りつけないのとで、ちょっとびっくりするような場所まで誤乗してしまったそうです。お疲れだったのでしょう。

 「集合の25分前には着けるはずの時間に出てきたのに、25分遅刻になってしまいました」

 としょげています。まあそういうこともあるさ。あと5分遅かったら私たちは行ってしまうところだったので、むしろ好運だったと言えましょう。
 それにしても、と私は考えました。待ち合わせで、何時とか何時半とか、きりのいい時刻を設定するのは混雑がひどいので、13時15分とか、いっそのこと13時13分とかの半端な時刻にしておいた方が良いかもしれません。心理的にも、00分や30分で5分遅刻とか言ってもそんなに遅れた感じはしないけれど、13分待ち合わせで18分になってしまうとかなり気がとがめるのではないかと思います。


 上野公園の総合案内所で、荷物を預けられるところがないかと訊ねてみましたが、それぞれの施設内に入らないとないとのこと。仕方なくだーこちゃんは重いパソコンを担いだまま動物へ向かいました。
 前述の通り、動物園は無料になっていましたが、入場者数カウントのためゲートには係のお姉さんがたが配置されています。
 入ってすぐのところにものすごい行列。言わずと知れた、パンダ舎へ向かう人の列です。最初のパンダ、カンカンランランがやってきてから、かれこれ30年経ちますが、いまだにパンダを見たがる人はあとを絶ちません。
 とりあえず先にキジの檻を見ましたが、そのあいだにも行列は長くなる一方です。さすが無料公開日。

 「パンダ、見たいですか……?」

と他の3人に諮りますと、

 「見えそうにないから、今日はいいです」phaos先生。

 「平日に来ましょう」だーこちゃん。

 「いや、どっちでも……」ラビンヤヂアさん。

 消極多数ということで、今回はパンダ舎をオミットすることにいたしました。
 パンダ舎を廻り込んで歩いてゆくと、コインロッカー発見。だーこちゃん、嬉々としてパソコンを預けます。
 それからゾウの檻へ。

 「あれホンモノ?」

と叫ぶだーこちゃん。いや、動物園だし、ニセモノは居ないと思いますが。


 それにしてもすごい人です。どこへ行っても、目指す動物の姿を見るのにはひと苦労するほどです。
 クマのコーナーはオープンな檻になっているのでまだましでしたが、トラゴリラのところは、全体が壁で覆われ、ところどころに開いている覗き窓から見るだけですので、客が群らがってなかなか見ることができません。phaos先生など、早々と諦めていることが多かったようで。
 いちばんはしゃいでいたのはだーこちゃんでしたが、そのせいかいちばん早くへばったようでした。

 「やばいっす。運動不足っす」

と騒いでいました。しかしそれを言えば4人とも体育会系とはほど遠く、運動不足を憂慮せねばならない生活を送っているようでもあります。phaos先生は学校の先生なので教壇に立っていることが多いため、わりと歩いていても平気なのかもしれません。ラビンヤヂアさんはなんと言ってもまだ若いし。
 しかし私とだーこちゃんの運動不足ぶりはたぶんどっこいどっこいで、しかも彼の方がずっと若いことを考えると、だーこちゃん、いくらいちばんはしゃいでいたとしても、ちょっとやばいかも。実はひとつ思い当たる原因がありますが、

 「これはバラさないでくださいよ〜〜」

と釘を刺されたあることに関係しておりますので、その原因については皆様のご想像にお任せいたします。


 適宜休憩をはさみながら、それでもひとわたり見て歩きました。
 上野動物園は東園西園に分かれており、間に動物園通りという道路が通っています。これを渡るには、イソップ橋という陸橋を徒歩で渡るか、モノレールを使うかということになります。このモノレール、わずかに330メートルのミニ路線ですが、ちゃんと東京都交通局が運営しているれっきとした鉄道で、確か共通バスカードが使えたのだったと記憶しています。
 第2回オフの時はモノレールに乗ったのですが、今回はあまりの行列の長さに辟易してパス。高所恐怖症だったらしいだーこちゃんが怖がったという理由もあります。羽田へ行く時に乗るような跨座式のモノレールと違い、ここのは懸垂式ですので、床板一枚下は何もない空間で、心細い気がするのは確かです。
 イソップ橋を歩いて渡っても大した距離ではありません。上野の山の上にある東園から、不忍池(しのばずのいけ)のほとりにある西園まで、くねくねと曲がった道を下りてゆきます。
 西園にはキリンダチョウカバサイといったアフリカ系の動物や、小動物を集めた小獣館、両生類・爬虫類を集めたビバリウムなどがあります。
 フラミンゴの檻の隣に、いやにくちばしの幅の広いコウノトリが居て、何やら物思いにふけっていました。そのコウノトリの顔を正面から見ていると、恐竜そっくりな顔つきに見えてきました。最近の説では、恐竜と鳥はきわめて近縁で、ほとんど途中に線引きできないほどだと言われていますが、彼の顔つきを見ると思わず納得します。
 ラビンヤヂアさんは小獣館が気に入ったようで、なかなか出てきませんでした。
 世の中には、どうしてまたこんな姿になったのだろうと思えるような動物がたくさん居るものです。けっこう動物関係の本などもよく読んで、要らんことまで知っているような顔をしている私でも、実際に眼にしてみると驚くことがたくさんあるのでした。例えば、ヤマアラシという動物があんなにでかいものだったとは、まるで想像していませんでした。あれが全身の棘を振り立てて迫ってきたら、確かにびびりますね。
 動物園というのは、決して子供の遊び場というだけではないし、気軽なデートコースというだけでもないようです。知的な発見がいくらでも得られる場であり、そういう意味では今回、男4人で見て廻ったのも、光景としてはどうか知りませんが、甚だしく奇異なことというわけではなかったと思います。
 さて、そうこうするうち、かなり時間が差し迫ってきました。パンダをはじめ、オミットした動物もけっこう居たことを考えますと、思った以上に時間をつぶせる場所でもあったようです。ビバリウムは駆け足で見て歩かなければなりませんでした。もっとも、だーこちゃんは爬虫類がダメなようで、外で待っていました。前回参加したsawakoちゃんはなぜかワニが好きで、最初から

 「ワニ〜、ワニ〜」

と騒いでいましたが、確かあの時は両生爬虫類館が工事中で、仮設の小さな檻で寝ているワニしか見られなかったのだったと記憶しています。今回は巨大なイリエワニが活発に泳いでおり、sawakoちゃんに見せてあげたかったと思いました。
 西園には弁天門池之端門という出口があり、そこから出れば第二次集合の場所である京成上野駅にも近かったのですが、コインロッカーに預けただーこちゃんのパソコンを回収しなければならないため、再びイソップ橋を渡って表門へ向かいました。
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