湘南新宿ラインと川口駅

 私の家の最寄り駅である川口駅で、よく「湘南新宿ラインを川口駅に停める」という署名を集めています。
 川口駅利用者としては、まったく異存はないので、今日通りかかった時に署名してきました。
 川口駅には現在、京浜東北線東北・高崎線湘南新宿ラインの3路線の線路が通っています。それぞれ複線を持っているため、合計6本の線路が敷かれているわけです。
 しかし、この中でプラットフォームがあるのは京浜東北線だけです。
 ……と書くと、たぶん鉄道マニアからは文句が出ることでしょう。正しくは三複線の「東北本線」が通っているだけで、その「緩行線」にのみプラットフォームがある、ということになりますが、まあそんなに厳密を期した叙述にする必要も感じないので、とりあえず3路線が通っているということにします。

 川口駅は利用客数がかなり多い駅です。去年の統計では、一日平均の乗車客数が78,759人、この数値はJR東日本管内では52位で、それほど順位として高くはないように思えますが、乗り換え路線が無い──つまり一路線しか停車しない駅としては、大森三鷹に次いで第3位になります。他の49駅は、すべて複数の路線(JR、地下鉄、私鉄など含む)が集まっている駅なので、乗降客もその分多くなります。一路線あたりの乗車客数ということになれば、もっとずっと上位になるはずです。
 埼玉県内でも第3位です。ただし第2位の浦和とは抜きつ抜かれつというところで、年によっては浦和を上回っています。2010年の統計でも、浦和はJR東日本管内で51位でしたから、まずほとんど差はないと言って良いでしょう。なお県内1位はダントツで大宮です。大宮は県内1位であるばかりか、東京都より北にある全駅の中で1位ですから、これはとても太刀打ちできません。
 それにしても、川口駅の利用者は仙台広島よりも多いのです。これほど乗客の多い駅に、さして広からぬプラットフォームが1面しか無いのですから、ラッシュ時の混雑ぶりは半端ではありません。私は幸い、今はそれほどラッシュ時に川口駅を利用する必要がないので助かっていますが、以前学校に勤めていた時などは大変でした。
 上記の、乗り換えのない駅のうち、三鷹には3面6線のプラットフォームがあり、各停、快速、特快のほか時には特急も停車します。大森は京浜東北線しか停まらず1面しかプラットフォームがないという点で、川口と似ていますが、ただ改札が2箇所に存在しているので、混む場所が分散します。川口駅は改札がひとつしかなく、これもまた混雑の原因となっています。
 プラットフォームの混雑がひどいので、積み残しが出るの、乗客が電車に接触したのと、いろんな原因でしょっちゅう電車が遅れます。私の家は線路沿いにあるのですが、徐行したり急ブレーキをかけたりしている気配がちょくちょく伝わってきます。
 「急行線」にあたる東北・高崎線、あるいは湘南新宿ラインを停めて欲しいという要望は、ずいぶん以前から出ていたようです。快速電車が欲しいという以上に、混雑回避のために少なくとももう1面のプラットフォームが欲しいというのが本心でしょう。

 新しいプラットフォームを設けるとなると、線路を付け替えなければなりませんから、なかなか大変な工事になります。
 しかし、川口駅の西側には、意図的か無意識かわかりませんが充分なスペースがとってあり、用地確保に苦労することはありません。
 駅を通っている6線のうち、東北・高崎線の通る真ん中の2線にプラットフォームを設けるのは難工事になりそうですが、いちばん西側を通る湘南新宿ラインに設置するのは、それほど大工事にはならないのではないかと思います。なんとなれば、下り線(もっとも西側を通っている線路)だけ少し線形をふくらませれば済みます。
 工事費も川口市が拠出するにやぶさかではないと思います。
 しかし、署名嘆願に対するJR東日本の回答ははかばかしいものではありませんでした。

 停車駅が増えることで、湘南新宿ラインの速達性が損なわれるというのがJR東日本の言い分です。
 学生時代、まだ湘南新宿ラインが無かった頃ですが、上野の大学に通うのに、時々赤羽で乗り換えて東北・高崎線の電車に乗って行き来していました。ある時なんの気なしに、
 「あ〜あ、川口にもこっちの電車が停まればなあ」
 と呟いたところ、北本から通っていた友人がすかさず言いました。
 「これ以上停まる駅を増やさないで欲しいね」
 確かに大宮以北の利用者にとって、停車駅が増えるのは願い下げでしょう。ただでさえ混んだ列車に長時間乗ってくるのに、この上川口に停まって、今以上の乗客が乗ってくるのではたまらない、という気持ちは理解できなくもありません。
 が、湘南新宿ラインだったらどうでしょうか。
 今のところ、川口駅利用者は、池袋・新宿・渋谷など、いわゆる裏山手副都心に出る際、赤羽で埼京線か湘南新宿ラインに乗り換えています。川口に停車すれば、赤羽での乗り換え客がシフトするわけで、むしろ好都合ではないでしょうか。西川口などからの乗客も、川口で乗り換えることが多くなるかもしれません。混雑が分散化されて、列車の遅延や事故も減少しそうです。ただし、これらの駅から十条板橋に行く乗客はそんなに居ないため、今まで埼京線に乗っていた人が移ってきて、多少は混むかもしれませんが。

 湘南新宿ラインは、もともと貨物線だった線路を活用しているため、浦和さいたま新都心にプラットフォームがありません。
 浦和駅は先頃、全面高架化工事をおこない、その際湘南新宿ラインにもプラットフォームを作るという噂があったのですが、結局見送られました。
 さいたま新都心駅のほうは、引き込み線が錯綜している場所を通るので、とてもプラットフォームを作る余地はありません。
 赤羽から大宮まで、東北・高崎線は浦和とさいたま新都心に停まり、湘南新宿ラインはそれらに停まらない代わりに川口に停まる、という方式なら、バランスも悪くないと思います。
 速達性ということを言えば、同じ速度で走るとすれば、ひとつ停車駅が増えると1分余計にかかるというのが相場です。湘南新宿ラインが1分余計にかかっても、さほどの問題はないように思えますし、大体JR東日本の列車は余裕時分をやたら大きくとっているので、全体の所要時間をほとんど変えずに停車させることだって別に難しくはないはずです。

 JR東日本の言い分としてもうひとつ、隣駅である赤羽に停車しているので、連続停車となり、「快速」としては好ましくないということもあるようです。
 これなどはさらに何をか言わんやで、快速または快速的列車が連続停車している区間などいくらでもあります。早い話が上記のさいたま新都心も大宮の隣駅です。しかも大宮〜さいたま新都心は1.6キロしか離れておらず、赤羽〜川口間2.6キロよりずっと短いのです。
 いろいろ理由はつけていますが、要するにJR東日本としては、あんまり新しいことをやりたくないというのが本音でしょう。

 池袋や渋谷などに出る機会がわりに多いので、湘南新宿ラインが川口駅に停まってくれれば、私個人としては大助かりです。その意味では、上野に行くのがせいぜいの東北・高崎線なんぞは別に停まってくれなくても良いくらいです。
 まあ私の個人的事情などはどうでもよいのですが、川口市は隣の鳩ヶ谷市と合併して、人口が56万人ほどになります。人口では全国25位くらいになるのではないかと思いますが、これだけの人口を抱える市で、特急が停車する駅がひとつも無いというところは他にありません。市(人口約84万)と相模原市(約72万)はJRの特急は停まりませんが(臨時に相模湖駅に停車することはある)、それぞれ南海電鉄小田急電鉄の有料特急の停車駅があります。東大阪市(約51万)では布施駅に一部の近鉄特急が停まります。西宮市(約48万)に至ってようやく有料特急の停車駅が無くなりますが、それでも阪神阪急の特急は停まります。
 特急どころか快速(または快速的列車)すら停車せず、市内にある駅はすべて鈍行しか停まらない、そんな市を探してみると、川口市の次に人口が多いのは、約35万人の吹田市となります。
 これはどうもいささか体裁が悪いようでもあります。いちど拒否されたのに、またも署名がおこなわれているのは、合併も契機になっているのでしょう。合併したからと言って急に川口駅の利用者が増えるというわけでもないでしょうが、50万都市の玄関口としてふさわしいものにしたいという気持ちは強いものと思われます。
 上記のJR東日本の回答を見る限り、拒否の論拠はやや説得力に欠ける気がします。もうひと押ししてみたいところです。

(2011.9.25.)


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