政府が、成田空港と羽田空港を結ぶ新しい鉄道「都心直結線」の推進を決めたようです。 現在、成田空港から羽田空港へ(あるいはその逆向きに)移動しようとする場合、公共交通機関で直通しようと思えば、事実上は東京空港交通のリムジンバスを使うしかありません。日中は10〜20分おきに走っていて、便利は便利なのですが、なにぶんバスですので、途中で渋滞にぶつかると予想外に時間がかかります。 鉄道では、京成電鉄・都営浅草線・京浜急行電鉄を通して走る電車が確かにあり、乗り換え無しで移動することは可能です。 ところが、期待されていたスカイライナーの直通はおこなわれませんでした。リクライニング回転クロスシートを備えたスカイライナーが、羽田と成田のあいだを直通していれば、両方の空港をトランジットする旅客にとってはずいぶん楽だったでしょうが、それはまったく検討もされなかった模様です。 これは、スカイライナーの車輌が地下鉄に乗り入れられる仕様になっていなかったというのが大きな理由かもしれません。地下鉄乗り入れ車輌は、非常の際のため、前後に必ず貫通路を備えていなければなりません。左右がトンネルの壁なので、列車の前方または後方から避難するしかないわけです。小田急のメトロ特急などはちゃんとそういう設計になっています。 京成上野から日暮里とか、成田空港内とかは地下線ではないかと思われるかもしれませんが、地下鉄でない地下線、またはトンネル内というのは、両脇に避難用の通路を設けることが義務づけられています。地下鉄の場合は、通路を設けるとトンネルの内径が大きくなって建設費がかさみますので、特例として通路が無くても良いことになっており、その代わりに乗り入れ車輌のほうに貫通路の設置を義務づけているわけです。
それでスカイライナーの直通はできませんでしたが、次の期待としては、京急の快特用2100系などと同等な列車が両空港のあいだを直通するということでした。この車輌は転換クロスシートで、関東地方の民鉄の一般車輌としては最上とされています。
しかし、2扉であったもので、都営地下鉄や京成から難色を示されたそうです。地下鉄はともかく、スカイライナーを走らせている京成が難色を示すことも無さそうに思えますが、ともあれ2100系は他社に乗り入れることができず、その前のモデルである600系がかろうじて直通しました。これはやはりクロスシートですが3扉です。空港間直通運転をはじめた頃、私も乗りに行ったことがありました。
これが、京急線・都営線内はエアポート快特、京成線内は快速特急(当初は特急)として走ってくれていれば、スカイライナー直通ほどではないにしても、まあまあ便利と言えます。
ところが、これもなし崩し的にダメダメになってゆきました。理由はまぎれもなく、直通利用者が少なかったからでしょう。
まあまあ便利と言っても、車内に大きな荷物の置き場所などがありませんので、国際線と国内線を乗り継ぐような大旅行の場合はあまり使いたくならなかったのだと思います。時間もかかりすぎです。さらにトイレが無いのも致命的だったでしょう。
もっといけないことに、600系には限りがありましたので、普通のロングシート車が充当されることが多かったのです。京成にはクロスシートの一般車がありません。従ってクロスシートで快適に移動できるかどうかは、運任せみたいなところがあり、これでは敬遠されても仕方がありません。
やがて、エアポート快特は京成に乗り入れると、一般車最上位の「快速特急」ではなく、その下の「特急」でもなく、さらに下の「快速」になってしまうという情けないことになりました。成田と羽田を直結するなどという志は失われ、京成沿線の利用者をこまめに拾って羽田空港に届けるという方針に変わってしまったわけです。京成側だけ見ると、下位優等列車である「快速」が、上位の「特急」「快速特急」よりグレードの高い車輌で走ることがあるという奇妙なことになりました。
2010年に、成田空港への短絡線、いわゆる成田スカイアクセス線が開通しても、両空港のあいだの交通手段としては、さほどの変化はありませんでした。スカイライナーは依然として上野発着しかありません。
スカイアクセス線経由の一般列車として、「アクセス特急」が新設されました。これはダイヤをいろいろ試行錯誤した結果、現在では日中だけ40分おきに両空港を直結しています。朝は西馬込や神奈川県方面、夕方以降は上野発着となっています。京急側から都営浅草線に乗り入れるエアポート快特は基本的にはアクセス特急に化けるようになり、京成の快速は基本的には西馬込へ乗り入れるようになり、いまのところは一応整理された状態と言って良いでしょう。
しかし、京急600系以外はロングシート車ばかりという状況は変わりません。京成車はすべてロングシートですし、京急の新1000系もロングシートです。よほどの貧乏旅行者しか、この電車で両空港間を移動しようとは思わないのではないでしょうか。やっぱりトイレがついていませんし、荷物置き場が設置されてもいないのです。
所要時間は、スカイアクセス線の短絡効果と、全車輌を時速120キロ対応にしたことで、多少は縮まりましたが、90分を切ることはできていません。この所要時間は、冒頭に触れた東京空港交通のリムジンバスとようやく互角というところです。
世界を見てみると、もちろん国によって千差万別とはいえ、仮にも首都空港であればたいていはもう少し便利です。都心まで1時間以上かかるなんてところは滅多にありません。トランジットのために1時間以上移動する必要のあるところも、まず無いのではないでしょうか。
そこで、時速160キロを出せる大深度地下新線を建設し、成田と羽田を60分以内で結んでしまおうというのが、今回打ち上げられた計画であるわけです。
スカイアクセス線ができる前は、これが完成すると、上野から成田空港まで35分程度で移動できるという触れ込みだったように記憶していますが、それは少々誇大広告であったようです。実際には現在のスカイライナーは、「日暮里〜空港第二ビル 最速36分」ということになっています。
新設された印旛日本医大〜空港第二ビル間では最高時速160キロを出して快走していますが、京成や北総鉄道の既設線の区間ではそこまでは出せません。120キロがせいぜいでしょう。
仮にこのスカイライナーと同等の列車を走らせるとすると、押上〜空港第二ビルで33分ほどというのは可能でしょう。今回計画された押上〜泉岳寺は、浅草線と重なりつつ、少し違うルートの部分もあるようですが、距離的にはあまり変わらず、約11キロというところです。この区間を160キロ運転すれば、4分10秒足らずで駆け抜けることが可能ですが、途中に新東京駅を設置するつもりのようですので、そこに停車するとして、停車時間と減速による遅延分を3分足して7分ほど。泉岳寺〜羽田空港国際線ターミナル間は、現在の最速のエアポート快特で15分。以上を加算すると55分となり、なるほど1時間を切ります。
ここを走る列車は、現在のスカイライナー以上のものにしたいところです。もちろん回転クロスシート、できれば2+1席配置もしくは独立三列シートの「グリーン車」(500円くらい料金追加)なども装備したいですね。グリーン車では飛行機の座席に備えられているようなテレビも各席に用意すると良いでしょう。輸送力に難があるようであれば、2階建てにするのも良さそうです。車内販売もあったほうが良いと思います。
現在のエアポート快特←→アクセス特急がやたらと時間がかかるのは、結局都営浅草線がネックになっているからというのが主要因です。浅草線内には追い越しのできる設備が無く、エアポート快特は通過運転はするものの、先行の各停電車を追い越すことができません。そのため羽田空港から押上までだけでも40分近くかかってしまいます。
浅草線に待避設備を設置しようという声は、ずいぶん前から上がっていました。また、東京駅に立ち寄る支線を建設しようという話もありました。空港と新幹線などとのアクセスを良くしようというもくろみです。
が、既設の地下鉄のトンネルを拡げたり、支線をあらたに建設したりというのは、大変な費用がかかります。用地を確保するだけでも容易ではありません。
用地買収の必要のない大深度地下を使って新線を敷いてしまうというのは、昨今のトンネル技術の進歩を鑑みれば、なかなかうまい手です。現在の技術であれば、地上に影響が出るのは駅の部分だけで、途中に設けられる駅が新東京駅だけなのであれば、費用が圧縮できる上に、工期もだいぶ短縮できるでしょう。
新東京駅は、現在の新幹線よりもむしろ、リニア(中央新幹線)との接続を重視すれば良いかもしれません。リニアもどうせ都心部は大深度地下を利用することになりますから、この都心直通線との乗り換えを簡単にしておけばずいぶん便利です。
完成は2030年代半ばを目標にするということなので、まだ20年以上先の話ですが、ぜひ実現して貰いたいと思います。
ところで、私はスカイアクセス線ができた際、京成としては空港連絡はそちらに任せてしまい、少し余裕のできた本線で何かはじめるのではないかと予測していました。
考えられるのは、千葉方面への輸送強化です。
京成千葉線は、鈍足の各駅停車が行ったり来たりしているばかりで、並行する総武線との競争などもう完全に諦めたかのような様子のローカル線となり果てています。確かに線形が悪く、あまりスピードも出せませんので、総武の快速などに対抗するのは無理と考えるのもわからないではありません。
しかし、京成は幕張本郷からは幕張メッセ方面へ直通急行バスを走らせていますし、鉄道との乗り継ぎ割引などおこなえば総武線から客を奪えると思います。また、旧型のスカイライナーを千葉発着で走らせ、総武線快速のグリーン車より少し安いくらいの料金にしておけば、利用者はあるはずです。東京と、百万近い人口を持つ県庁所在地・千葉とを結ぶ電車が利用されないなどということはあり得ません。距離的には大阪〜京都とほぼ同じであり、京阪間にはJR、阪急、京阪と3本もの鉄道がひしめいて、いずれも健闘しています。京成がこの間の勝負を事実上投げているのは、不見識のそしりを免れません。
千葉ライナーの運転くらいはじめるだろうと私は思っていたのですが、旧型のライナーは千葉などへはやらず、いままで通り本線経由で成田へ走っていました。途中停車駅を少し増やしており、スカイアクセス線が通らない途中駅から成田空港への客を拾おうと考えたに違いありませんが、案の定利用者は非常に少なく、ついに一日2往復まで削減されてしまいました。いい加減京成は、「ライナーは成田空港への便のためのもの」という固定観念から解放されたほうが幸せなのではないでしょうか。
成田空港は、最初にボタンの掛け違いをしてしまったおかげで、まだ滑走路がようやく2本しかできていません。反対派はいまだに生き延びているのです。新しいB滑走路は、2002年のサッカーの日韓ワールドカップに間に合うよう急遽作ったもので、2000メートルそこそこしか無いという、先進国の国際空港とは思えないようなお粗末なシロモノです。
しかも騒音問題のため、夜間の発着ができず、実に使い勝手の悪い空港となってしまっています。
成田がもたもたしているうちに、羽田がどんどん再拡張を進め、4本の滑走路を備えた堂々たる空港となりました。しかも24時間運用が可能なように作られています。現在のところ深夜便は国際線や貨物便だけですが、ポテンシャルとしては海外の主要なハブ空港に充分匹敵する設備を持っています。羽田発着の国際便は、しばらく台湾とかそのあたりに限られていましたが、2010年からは本格的な国際便ターミナルが開業し、欧米便も増え始めています。いまや、外国へ行くのに必ずしも成田を使わなくても良くなりつつあるのでした。
本来、成田空港は羽田空港のオーバーフローを救済するために作られたはずなのですが、羽田が自力で解決してしまったような按配で、もしかすると成田の国際空港としての地位は、これから徐々に下がってくるかもしれません。
何しろ成田が東京都心から遠すぎるのでいろいろ問題が発生したり、いろいろ計画が練られたりしているわけですが、最終的には成田は、乗り継ぎに特化した空港ということになるのかもしれません。つまり、東京に別に用がない旅客のための空港で、そうなったら大半の客は空港から外へは出る必要が無くなります。
だとすれば、20年後を見越して直通鉄道を建設するなどという計画は不要にならないとは限りません。単に直通鉄道を造るだけではなく、羽田と成田の両空港をどう組み合わせて運用してゆくのが得策であるか、日本の航空交通政策の手腕が問われることになりそうです。
(2013.5.31.)
【後記】残念ながら、当時の猪瀬直樹都知事があまり積極的ではありませんでした。はたして計画は推進されているのでしょうか。
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