II
前夜のなごりの頭痛を抱えながら、関東鉄道常総線と真岡鐵道を乗り潰しに出かけたわけですが、途中日暮里での京浜東北線から常磐線への乗り換えでは、まだ確かにしんどさが残っていて、階段を昇らずにエレベーターを使ったものです。 しかし、取手での常総線への乗り換えの時には、すでに気分の悪さは無くなっていました。まったく現金なものですが、私はわずかでも列車に乗って旅に出かけると(同じ列車でも、京浜東北線や山手線、埼京線なんかだとダメですが)、多少の心身の不調は吹き飛んでしまう体質なのでした。 従来も、どうも気分がすぐれないという時にふらりと列車に乗りに行ってきたらすっかり良くなったということが何度もあります。 体調が悪い時は旅など取りやめて大事をとるというのが普通の人の行動でしょうが、私に関してはあてはまらないようです。さすがに熱が出ていたりしたら無理かもしれませんが、少々の不調は、むしろ列車に乗ることで癒されるのでした。 さて、水海道(みつかいどう)で謎の「スーパーメルカード」を見たりしつつ、常総線を踏破して下館に到着し、そこから真岡鐵道のディーゼルカーに乗り換えました。
真岡鐵道は蒸気機関車の運転で有名です。
秩父鉄道や大井川鐵道など、「SL急行」というのを走らせている鉄道もありますし、JR東日本でも「みなかみ号」などを臨時で走らせていますが、ひとつ問題があります。それは、それらの運転区間が、いずれも電化された区間であるということです。そのため、例えば映画やドラマの撮影などで蒸気機関車を映そうとする場合、架線が邪魔になってしまうのです。映画やドラマで蒸気機関車が必要なのは、たいてい時代が明治とか昭和初期とか、そういう設定になっていることが多いため、架線が映り込むとおかしいわけです。
だから、そういう映像を撮りたい場合は、真岡鐵道が使われます。もちろん観光SL列車の運転の嚆矢となった山口線(JR西日本)などの路線もありますが、東京のスタジオからはいかんせん遠すぎて不便なのでした。近場で、蒸気機関車が走っていて、非電化という条件を満たすところは真岡鐵道しかありません。
撮影用だけではなく、一般客向けに「SLもおか号」を土休日中心に1往復走らせています。14日は休日ですし、時間が合えば乗ってみようかとも思ったのですが、残念ながら下館発が10時36分で、乗ることはできませんでした。それでも線路上のどこかには居るわけで、行き会うことがあるかもしれないと考えましたけれども、ちょうど入れ違いになってしまったようで、目撃もできませんでした。前回乗りに来た10年前の時は平日だったので、蒸気機関車は真岡(もおか)駅構内に滞在しており、しかも私が乗ったディーゼルカーが真岡駅に着くと大音量で汽笛を鳴らしたので、飛び上がりそうになったのを憶えています。
しかし、その真岡駅は、駅舎そのものが蒸気機関車を模した、凝った造りになっています。真岡市自体が、「SLの街」を標榜して、街の中に蒸気機関車にまつわるいろんな展示やらアトラクションやらを設置していると聞きますので、いちど下りてみたいところではあります。今回も、益子(ましこ)の他に真岡で下車できないかとスケジュールをいじってみたのですが、どうもうまくゆかなかったのでした。
12時43分、益子に到着します。真岡鐵道沿線の観光資源としてはいちばん大きなところだと思いますが、駅そのものは片面だけのこぢんまりしたものです。
「常総線・真岡鐵道線共通一日自由きっぷ」についていた記念品引換券を使える「益子焼窯元共販センター」を中心とした陶芸村は、駅から2キロ近く離れているので、益子駅でレンタサイクルを借りるつもりでした。真岡鐵道のサイトによると、駅に10台ほどの自転車が用意されているはずです。
ところが、改札口の隣に自転車のラックが並んでいたものの、ほとんど空でした。2台だけ残っていたので、駅事務室のおばさんに
「あれは借りられるの?」
と訊いてみたら、
「こっちの1台はいま充電中だから(最近はやりの電動自転車でした)、もうしばらくは無理ですねえ。あっちのは調子が悪くて、あれを貸したら怒られちゃいそうなんで……」
と言葉を濁らせました。夏に那珂湊ではるかにヤバそうな自転車を借りたことがありますが、貸出料がだいぶ違うので(那珂湊は2時間まで100円、益子は400円)貸す側の責任も大きくなるのでしょう。そこをおして使わせて貰うとしても、1台では仕方がありません。諦めて歩くことにしました。
駅で貰った案内図を見ながら歩きます。ランドマークは適切に記してありますが、縮尺や道の曲がりかたなどはいい加減なので、いまひとつ距離感がつかめません。一方マダムは私のうしろを、飲食店ガイドの紙を眺めながら歩いています。下館で煎餅やドーナツを買って車内で食べ、小腹は満たしたと思うのですが、もうだいぶ空腹であったようです。ここが美味しそう、こっちで食べたらどうだ、とやかましく言いつのっていますが、食堂というのは行ってみないと雰囲気がよくわからないものです。混みかたも予想がつきません。ひとところにあらかじめ決めてしまうより、漠然といくつか候補にしておいて、行ってみて決めるというのが良いように思えます。
1キロほど歩くと城内坂という交差点があり、その先のスロープからが陶芸村になるようです。窯元や陶器販売店が蜿蜒と軒を連ねていました。
前に陶芸家の知人に聞いたのですが、益子焼というはっきりした焼き物のスタイルというものは存在しないんだそうです。有田焼とか伊万里焼とか萩焼とか、そういうのはある決まった伝統的な製法があって、それに則った焼きかたをしたものを指すわけですが、益子というのは古来の陶芸の地というわけではなくて、なんとなく全国から陶芸家が集まってきて陶芸村を作ったという場所なのでした。たぶん土とか水とかが適していたのでしょう。だから益子焼という言葉には、益子で作られた陶器という以上の意味は無く、製法もスタイルも「なんでもあり」なのが、逆に陶芸の里としての繁華さを呼んでいるとも言えそうです。ここの「窯元共販センター」は日本最大の陶器販売店だそうです。
駅に下りた人はそう多くなかったし、途中の道でも観光客はそんなにたくさん見かけなかったのですが、陶芸村に入るとかなりごった返していました。ほとんどの観光客はクルマで訪れるのでしょう。昼食は、結局マダムが最初に目をつけていたカレーの店で食べましたが、すぐに坐れるかどうか心配になるほどの人の入りでした。
焼き野菜がふんだんに乗ったカレーもおいしかったのですが、さすがに陶芸の里、器に味があります。この店は何軒かの販売店や陶芸教室などを営んでいるわりと大きな窯元が併設しているもので、器もみんな自家製なのでしょう。マダムは眼を輝かせていました。
そのあと共販センターに行って、何か良い器があれば買おうかと思ったのですが、どれも予想より高いようです。今回の旅の直前、マダムが家で、けっこう気に入っていた皿を一枚割ってしまって、その補充という意味もあったのですけれども、どうも値段に釣り合わない感じなのでした。
それで、そこでは記念品を貰うだけにしました。小型の湯呑みをひとつずつ貰いました。
センターから道をはさんだ反対側の空き地に、露店のテントがいくつも並んでいました。安い掘り出し物みたいなものはそちらのほうがありそうだと思ったので、「日本最大」の共販センターをあっさりと振り切りました。
予想どおり、露店のほうが手頃な値段になっていました。こちらで嬉しいのは「ちょっと難あり」の品を格安で売っていたりすることで、3枚ひと組500円とか1000円とか、たいへんお得感があります。難ありと言っても、釉薬がちょっとかかりきらなかったとかその程度で、それもまた意匠と見れば、使う分にはほとんど気になりません。マダムはたっぷり時間をかけて、合計2000円で7枚の皿を入手しました。ふたりともリュックザックで来ていたので助かりました。軽からぬ陶器を手に持って歩くのはしんどいし、振り回してどこかにぶつけてしまう危険も高くなります。
それにしても品選びに時間がかかりすぎて、列車の時刻まで余裕がなくなってきました。徒歩で来ていますので、移動時間も計算に入れなければなりません。マダムをせかして、早足で戻りました。往路は30分ばかりかかったと思いますが、復路は20分ほどで歩ききりました。
ところが、ここで私の沽券に関わるようなミスを犯してしまっていました。
プリントアウトして持ってきた行程表には、15時30分の茂木(もてぎ)行き列車に乗るように書いてあったのですが、プラットフォームに入ってベンチに坐り、しばらくくつろいで居て、ふと気づくともう15時35分です。30分の列車はどうしたのかといぶかしく思い、改札脇の発車時刻表を確認したところ、なんと15時30分などという列車は存在しないのでした。15時台の列車は、19分と46分しかありません。
どうして行程表に15時30分発などと書いてしまったのか、しばらく茫然としました。
もくろみとしては、茂木発16時ちょうどの東野交通バスに乗って宇都宮に抜けるつもりでした。このバス、かつてはもっと便数があったはずなのですが、現在は土休日ではわずか3便しかなくなってしまい、その最後の便が16時だったのです。従って、これに乗りそこねると、行程そのものを大幅に変改しなくてはなりません。
数分考えて、ようやく間違えた経緯の納得がゆきました。16時30分という列車はあったのです。
真岡にいちど下車して、それから益子に来ようと思った、という話は上に書きましたが、その時に、パソコンのメモ帳で作っていた行程表の、下館以下の時刻を全部書き直したのです。それで「益子 16時30分発」と記したのでした。
それでは茂木からのバスに乗れないということがわかって、数字を元に戻したのでしたが、その時に益子の発時刻を機械的に1時間前倒ししてしまったのです。着時刻がちょうど1時間ずれていたことによる錯覚でした。つまり、実際には12時43分に着いた益子に、真岡下車プランでは13時43分に着くことになっており、真岡下車を取りやめて「13:43」を「12:43」に戻した際、並べて書いてあった「16:30」を「15:30」に書き換えてしまったというお粗末だったのでした。
それでいて茂木には、真岡下車プランを立てる前の着時刻「15:45」をそのまま書いてありました。益子から茂木まで16.8キロを、単線非電化貧弱線路の真岡線ディーゼルカーが、15時30分から45分までの15分ばかりで踏破できるわけがないと、そこを疑うべきだったのですが、まるで気がつかなかったのです。
列車は15時46分にダイヤどおり到着しました。当然ながら16時などには茂木に着けません。茂木着は16時15分となりました。茂木に予定どおり着くためには、15時19分の便に乗らなければならなかったわけです。陶芸村から急ぎ足で駅へ帰ってきたのが確か15時20分くらいで、まさにタッチの差で逃してしまっていたのでした。
こうなっては仕方がありません。マダムはやはり終点まで踏破したいと言うので、茂木まで乗りました。ここは「常総線・真岡鐵道線共通一日自由きっぷ」の適用範囲外ですので、普通に切符を買わなければなりません。
茂木駅に着いてみても、どうにもなりません。1日3便の宇都宮行きバス(平日は5便ありますが)以外、どこへ向かうバスの停留所も駅前には存在していません。どん詰まりのような場所です。地形的にも、関東平野が尽きて山が迫ってきている、どん詰まりの場所なのです。
16時28分折り返しの同じディーゼルカーで、来た道を引き返すしか手はないのでした。
ところで、引き返してどうするかです。宇都宮へ出て夕食に餃子を食べる予定にしてあり、マダムの頭の中では「餃子」がすでに強固な固定観念になってしまっていたようで、なんとしても宇都宮に行きたいと言います。
普通に考えると、このまま下館まで、真岡鐵道の全線を引き返し、JR水戸線に乗り換え、小山に出て東北線に乗り換えれば宇都宮に行けます。ただし、時刻表を調べてみるとずいぶんと時間がかかるようで、宇都宮着は19時を過ぎてしまいます。真岡鐵道と水戸線、水戸線と東北線のいずれの接続もあまり便利ではありません。
もっと手はないかと、折り返しの列車の中で必死で時刻表のページを繰り続けました。実は、急遽予定を立て直すという作業、嫌いではありません。
ふと思いついたのが、益子から宇都宮というバス路線があるのではないかということでした。同じ栃木県内で、有名な観光地です。県庁所在地から直通のバス路線くらいあっても不思議ではありません。
調べてみると、「ビンゴ」でした。しかもいま乗っている折り返しの便が益子に着いて、わずか7分後にそのバスが発車するようです。絶妙なタイミングです。
ホッとしたところで車窓を見れば、秋の夕陽が雑木林や田園に照り映えて、実に美しい景色になっていました。別に勇壮な渓谷も峻険な山容も無く、ただの平凡な田園風景でしかありませんが、それがなんだか胸に染み入るようでした。益子から茂木まで、線路にずいぶんな傾斜がついていたことにも気づきました。列車に乗っていると、登り坂よりも下り坂のほうが傾斜がよくわかるようです。
益子駅の改札のおばさんは、どうも私たちのことを憶えていたようで、戻ってきたことに若干驚いていた様子でした。
改札のすぐ外にバス停が立っています。確かに東武宇都宮駅行き(もちろんJR駅も通る)のバスが間もなく来るようです。秋葉原から益子までの直行高速バスがあることもそのバス停の表示で知りました。
「こんどまた絶対、秋葉原からのバスに乗ってひとりで来よう」
と、マダムが決意表明をおこないました。
バス停にはもうひとつ、見逃せない表示がされていました。
──JR宇都宮駅まで1100円 お得なバスカード(1000円)1枚で乗れます 益子タクシーで販売
見まわしてみると、道路の向かい側に「益子タクシー」と看板を上げた営業所があります。バスが来るまであと5分ですが、私は急いでその営業所に走りました。
営業所の奥は普通の茶の間のようになっていて、何やら休日夕方の家族団欒をしている雰囲気でしたが、私は構わず引き戸を開け、
「バスカードってここで買えるんですよね」
と声をかけました。
ご主人が私の応対をしているあいだに、奥さんらしき人がカードを出してきました。本当に、1000円で買って1100円分乗れるバスカードでした。10%とは、ずいぶんとプレミアが大きいものです。以前、南関東のバス共通で使えるバスカードがあって、その5000円券というのは850円、つまり17%もの破格のプレミアがついていて、相当に使いでがありましたが、1000円券にはほとんどプレミアが無かったのではないかと思います。
ともかくカードのおかげで、200円安く宇都宮へ行けることになりました。
バスは駅前を出ると、さきほど私たちが歩いた道をそのまま通り、陶芸村の中を突っ切りました。むしろ先に茂木まで往復してから陶芸村へ行き、このバスが通るのをそこで待てば時間が有効活用できたのではないか……と、少し反省しましたが、まあ凡ミスの結果こうなってしまったのだから仕方がありません。
私たちは共販センターまでしか行きませんでしたが、その先にも陶芸村はしばらく続いていて、バスはその中をだいたい一巡してから益子をあとにしました。やがて、秋の陽がつるべ落としに落ちて、見る間に暗くなってきました。まだ18時というのに、闇を裂いて走っているような趣きです。
少し疲れていたようで、うとうととしました。途中眼が醒めたりまた眠ったり、気づいてみるともう宇都宮は近いようでした。時刻表の上では約1時間の行程ですが、宇都宮市街に入ってから少し道が混んでいて、到着は10分ばかり遅れました。
宇都宮駅ビル内の「餃子小町」というエリアに入っている店のひとつに入りました。マダムは「焼き・揚げ・水」のいわば「フルコース」を食べるのが好きなのですが、その店は「焼き・揚げ・水」の他にさらに「フライ餃子」なるものがあり、その4種をセットにしたメニューもあったので、迷わずそれを注文しました。店内では、お笑いコンビのU字工事(栃木県観光大使でもある)が出演している店のプロモーションビデオを、蜿蜒とエンドレスで流していました。
宇都宮からJRでそのまま帰っても良かったのですが、今回乗った私鉄がわずか2線であることが少々物足りなくもあり、この際「JRを一切使わずに帰る」というミッションをこなそうと思ってマダムに訊いてみると、面白そうだというので、駅前からバスに乗って東武宇都宮へ移動しました。JR宇都宮と東武宇都宮は、歩けない距離ではないし、実際私も歩いたことはあるのですが、夜にあやふやな土地感覚で歩くにはちょっと遠いのです。
東武宇都宮駅入口というバス停で下りると、さっき餃子を食べた店の別店舗が近くにあったので、益子からのバスで直接こちらへ乗りつけても良かったかと思いましたが、これもまたあと知恵というものでしょう。
東武宇都宮から草加まで東武鉄道で乗り継ぎ、草加から家の近くのバス停までバスに乗って帰ろうというプランです。東武は「ローカル私鉄」ではありませんが、私鉄に違いはありません。草加からのバスの便があることは確認しておきました。
前にもちょっと書いたことがありますが、東武は宇都宮線にもう少し力を入れるべきだと思っています。1往復だけ特急(以前は急行)「しもつけ」を走らせてお茶を濁すのは、もうこの四半世紀変わっていない扱いで、そろそろ見直したほうがよろしい。スカイツリーが完成し、野田線の近代化が一段落ついたら、東武にはぜひ宇都宮線の改良に乗り出していただきたいものです。
現在は全区間単線で、ほとんど線内列車が往復しているだけです。日光線との分岐駅である新栃木発着だったのが、JR両毛線から直接乗り換えられる栃木発着になった程度の改良しかしていません。まずは早急に複線化し、快速電車を直行させるべきです。
東武の快速は、今は東上線にも走っていますが、長らく日光・鬼怒川方面専用の種別でした。野岩鉄道・会津鉄道に乗り入れ、会津田島までの長距離を走っているのは立派だと思いますが、そろそろその役目は特急に譲って良い頃です。特急の停車駅も増えたことだし、途中駅の乗客を拾って日光や鬼怒川・会津方面へ向かうという快速の元来の役割はほぼ終わったと考えるべきでしょう。実際利用者が減って、大半の便を区間快速に格下げしなければならなかったわけですし。
この際、特急と競合する日光・鬼怒川方面はすっぱりと諦め、快速は宇都宮とのアクセスを主目的とする種別に切り替えれば良いというのが私の提案です。意外と不便な、松戸や柏など常磐線沿線から宇都宮への移動が非常に楽になります。JR利用から切り替える人もずいぶん出ることでしょう。
現在の宇都宮線は27.3キロを40分もかけてノロノロと走り、駅に着けば対向電車待ちを繰り返し、とても幹線とは言えません。北関東随一の都市である宇都宮に通じる路線を、こんなに貧弱なままにしておくのは東武の怠慢と言えるでしょう。
……などと妄想を繰り広げているうちに、電車はノロノロ走って栃木に到着しました。ここからも直通はできません。最近はほとんどの運行が、途中の南栗橋で分断されるようになってしまいました。メトロ半蔵門線などから直通してくる10輌編成の電車では、南栗橋以北を走っても輸送力過剰なので、ここで短編成の電車に切り替えるという理窟はわかるのですが、通して乗ろうとすると乗り換えがどうにも面倒です。
南栗橋で待っていたのは、中央林間まで92.6キロを走り続ける東急車の急行でした。むしろ他社とのほうが便が良くなっているようです。
以上、東武電車からの車窓はもちろんずっと闇の中で、別に面白くもなんともなかったのですが、マダムは意外にも、
「あのまんま『ラビット』に乗って帰ってくるよりずっと楽しかった」
と述懐しました。「ラビット」は東北線の快速電車の愛称です。マダムも、「乗っているだけで楽しい」という鉄の境地に近づいてきたようです。私の影響なのか、もとからの資質なのか。
益子で陶器をたくさん買ったこともあって、マダムは帰宅途中や帰宅後もご満悦でした。夫婦円満の媒介になるのであれば言うことはありません。またいずれ「少なくとも1回は途中下車」のローカル私鉄の旅をやりたいと思います。
(2013.10.15.)
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