何百人という死者が発生しているわけではない、と前に書いたのですが、なんだか時を追うごとに犠牲者が増えており、慚愧に堪えません。何百人どころか、すでに4桁に及ぶ死者・行方不明者が出てしまったようです。 最初の大揺れの報道の直後は、火災もそう出ていないようだし、家屋倒壊などもさほど起こっていないように思えたのですが、度重なる大きな余震と、何より津波によって、どんどん被害が拡大してしまいました。火災もかなり発生したようで、建物が津波に洗われながらなおも燃えているのを見て、不思議な気がしました。 ついには原子力発電所にも被害が出始めて、炉心融解の可能性があるとか。それがすぐにチェルノブイリやスリーマイルのようなことになるとは思えず、いたずらに怖れる必要はないのかもしれませんが、充分な注意と迅速な対策が必要なのは確かです。 地震の名前も、気象庁の命名で「東北地方太平洋沖地震」となりましたが、被害が拡がるにつれ、「東日本大震災」と呼ばれつつあるようです。太平洋沿岸ばかりか、長野・新潟あたりでも震度6の大揺れがあって、もはや東日本全域が被災地と言うにふさわしいような状態になってしまった以上、その呼称が妥当かもしれません。 被害の大きかった気仙沼や陸前高田の様子は、テレビの画面で見るだけでもまるで激戦場のようで、街があったとは信じられないような惨状になっています。松島の航空自衛隊基地は水没したとか。つい2ヶ月半ほど前にあのあたりを歩いてきたばかりだけに、他人事とは思えません。 私の住んでいるあたりでは、軽い余震が続いてはいるものの、ほぼ平常な状態に戻りました。もちろん、交通機関などはまだ充分に復旧しておらず、昨夜なども何時間も歩いて帰ってきた人も多かったようですが、とりあえずは落ち着いた観があります。 拙宅について言えば、積んであった雑誌が崩れた程度で済んだということは昨日書きましたが、停電もせず、断水もせず、ガスは一時止まったようですが私の気づかないうちに復旧したらしく、ほとんど生活に支障の出ることが無かったのは、本当に神様に感謝すべきところです。埼玉県の他の地域とか、東京や神奈川・山梨あたりでも停電がかなり長かったというような話を聞くと、うちが全く無事であったのは奇跡的だったような、何やら申し訳ないような。多少は義捐金でも出さないことにはおさまりがつかないかもしれません。 ともあれ、亡くなったかたがた、家を失ったかたがたはもちろん、帰宅難民で苦労なさったすべてのかたがたにも、謹んで哀悼の意を表したいと思います。 今回の地震は、日本列島の東側にある日本海溝が、数百キロの長さに渡って一挙に崩壊したことによるものとされているようです。東日本が載っている地殻を北アメリカプレート(オホーツクプレート)と言い、そこに太平洋プレートがもぐりこもうとしている場所が日本海溝です。 もぐりこもうとしても、お互い硬い岩石でできた固体同士ですから、そう簡単にはゆきません。太平洋プレートは後ろからどんどん押されてきますが、北アメリカプレートも頑としてそれを押しのけようとします。しばらくは摩擦力で堪えているものの、ある臨界を越えると、その境目のところが粉々に砕けます。今までぐいぐい押されていたものが、急に圧力を失うので、プレートは反動で跳ね上がります。するとそのプレートの上に乗っている地面は地震に見舞われるわけです。 日本海溝は北は襟裳沖、南は伊豆諸島沖に達する長い境目ですから、その全域で崩壊が起こったとなると、マグニチュード8.8という、すさまじいエネルギーになったのも無理はありません。 ちなみにネットなどで、どこかの国の地下核実験が原因みたいなトンデモ陰謀論がささやかれていることがありますが、こんなエネルギーを出せる核兵器はまだ人類の手にはありません。広島型原爆のエネルギーをマグニチュードに換算すると5.5であると聞いたことがあり、5.5と8.8を単純に比較しただけでも、9万倍くらいの差になります。9万発の原爆を一度に爆発させない限り、これだけのエネルギーを解放させることは不可能ということになります。変な噂に惑わされないようにしたいものです。 ちょっと不気味なのは、日本海溝に由来する今回の地震と、以前からずっと言われている東海地震は、場所が違うという点です。 東海地震は太平洋プレートではなく、フィリピン海プレートが原因と思われますので、今回のがあったからガス抜きになって発生が遠のいた、などということはまったく無さそうなのです。むしろ誘発されてそっちも遠からず起こるのではないかという懸念があるほどです。 ただ私が思うに、今回震度5強という揺れを経験した首都圏は、東海地震が実際に起こってもけっこう耐え抜くのではないでしょうか。今回も、北関東では倒壊した木造家屋もあったようですが、ビルが倒れたというケースはひとつも無かったようです。ついこの間ニュージーランドで起こったような悲劇は避けられました。壁が剥落した、天井が落ちたという事件はいくつか起こっているにせよ、その辺は今後すみやかに補強がおこなわれるでしょう。耐震ということがやかましく言われただけの効果はあったということです。10万人の生命が失われた関東大震災から90年近く、われわれの備えはそこまで進化したわけです。 大きな被害を受けた東北地方のかたがたには申し訳ないものの、首都圏までも強震に見舞われた今回の地震は、遠からず必ず発生するであろう東海地震の、一種の予行演習になったように思えます。こちらも充分な注意は必要とはいえ、決して怖れることはないような気がしてきました。 すでに海外では、 ――これだけの規模の巨大地震が発生して、このくらいの被害で済んでいるなど、日本以外の国ではあり得ないことだ。 という賞賛の声が上がっているようです。他の国だったら万単位の死者が出ていてもおかしくないと思う人が多いのでしょう。 また、阪神大震災の時にも言われましたが、被災者を含む人々が非常に規律正しく行動していることにも驚かれている模様です。映像を見るとパニックが起きている様子もないし、暴動は愚か略奪すら発生していません。コンビニなどでもちゃんとお金を払って品物を買っています。 BBCが毎年おこなっている、「世界に良い影響を及ぼしている国・地域」というアンケートがあって、日本は上位常連で、いつも1位タイか2位くらいの位置を占めていました。それがこのところの外交での失態続きのせいか、今年の調査では5位くらいに落ちていました(肯定的評価の率は3位タイだったのですが、中国や韓国などで否定的評価が多かったために得失差で5位だったようです)。災害時の人々のふるまいが映像に乗って世界に伝わることで、また巻き返すことができるかもしれません。 外国の評価はともかくとしても、日本は歴史上大きな不運に見舞われるたびに、より力強く復活することを繰り返してきた国です。その底力は、社会の活力が失われつつあるとされる現代においても、決して無くなったわけではないと私は信じています。 (2011.3.12.) 【後記】震災翌日、津波での行方不明者や死傷者が伝えられるようになりました。本文中に書いたように、報道があるたびに被害者数は急増し、これは容易ならぬ事態だと思いはじめました。福島原発事故についても報道がはじまったようです。 |
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