信濃・飛騨国境の御嶽(おんたけ)山が噴火して大変なことになっているようです。 頂上付近には150人とも250人とも言われる登山客が居たようで、どのくらい助かっているのか、行方不明の人とか倒れた人とかがどのくらい居るのか、あまりわかっておらず、ともかく噴煙がある程度おさまるまでは確かめようもないという状態です。 こういう時にも、撮影した写真や動画をインターネットにアップする人が居て、その意味では「まったく様子がわからない」というもどかしさからは解放されるわけで、良い時代になったものと思います。しかし、写真にしろ動画にしろ、一部分しか映すことはできないので、その様子が大ごとであればあるほど、そこに映っていない人々の無事が按じられて、別種のもどかしさも覚えてしまうようです。 避難小屋にかなりの人が逃れてきていたようで、それは喜ぶべきことでした。ただ、写真や動画を見ると、その避難小屋の周辺は雪が降り積もったように真っ白になって、灰がすでに十センチ以上積もっているらしいのでした。そのため、下山路が覆い隠されて見えなくなっているおそれがありますし、降灰を吸ったりすると呼吸困難に陥り生命の危険もあります。なかなか動きがとれないのではないでしょうか。
続報を見たところ、大半はなんとか下山できたようですが、骨折などの重傷を負った人、煙を吸って意識不明になってしまった人はまだ数十人の単位で残っているようです。陸上自衛隊が救助に向かおうとしましたが、硫化水素が噴出しているとかで、二次災害の危険もあっていまのところ近づけず、下山のサポート程度しかできていないとか。残された人々の無事を祈るしかありません。
火砕流などが発生しなかったのはまだ良かったと言うべきでしょうか。何百度というマグマに巻き込まれたら確実に死ぬわけで、被害はさらに大きくなってしまっていたことでしょう。
御嶽山というのは、私は登ったことはないのですけれども、標高3067メートル、日本で14位の高い山であるわりには、2200メートルくらいの高さまでクルマで行けたり、その上もわりと斜面がなだらかであったり、多くの美しい火口湖が点在したりするため、初心者向きのハイキングコースとなっています。土曜日である上、天気も好かったようで、軽い気持ちで登りに行った人も多かったのでしょう。高山帯はもう紅葉がきれいであったかもしれません。しかも昼間ですから、かなり最悪のタイミングでの噴火であったと言えそうです。
これが浅間山とか三原山とか雲仙岳とか、わりとしょっちゅう爆発しているような山なら、「少しは気をつけろよ」とも言えるのでしょうが、気象庁の噴火警戒レベルは1で、これは「火口内に入ると危ないかもよ」という程度のサジェスチョンに過ぎません。誰も噴火するとは思っていなかったでしょう。
とはいえ、35年前の1979年にはかなり大きな水蒸気爆発を起こしています。その後も1991年と2007年に小規模な爆発がありました。もう少し注意深い観察が必要だったのではないかと悔やまれます。
1979年の爆発は、火山の定義を根本的に見直すきっかけにもなりました。昔は、火山の種類として「活火山」「休火山」「死火山」という言葉があり、私も子供の頃教わった記憶があります。このうち活火山はいま現在活動中で噴煙を上げていたりする火山のことですからわかりやすく、現在でも使われている言葉です。死火山というのは有史以来噴火の記録が無い火山、休火山は噴火の記録はあるものの現在は特に噴煙も無く平穏な状態の火山ということでした。
御嶽山はこのうち「死火山」であると思われていたのですが、それがいきなり爆発したものですから、どうも火山の活動というのは、「有史」であるたかだか千数百年、よほど古い文明を持つ土地でもせいぜい4000年かそこらの文献資料でカバーできるようなシロモノではなく、少なくとも「万年」という単位で考えるべきものなのではないか……という考えかたが主流となりました。つまり、この2000年間やそこら噴火していないからと言って、火山は死んでしまったわけではなく、バリバリ現役中と見たほうが妥当だということになったのです。
それで、「死火山」「休火山」という言葉は、学術用語からは削除されました。そういえばこれらの言葉を聞かなくなったなあ、と私が思ったのは、1986年の三原山噴火の頃だったでしょうか。
100万年以上も噴火の痕跡の無い火山であれば、さすがに死火山と称しても良いのではないか、というような意見はあるものの、認められてはいません。
御嶽山の1979年の爆発は、ほぼ5000年ぶりだったそうです。5000年前のも小規模な爆発で、大きな噴火となると9000年前まで遡らなければなりませんでした。それが1979年からこっち、小規模爆発とはいえ何度か起こっていたということは、明らかに長い眠りから醒めて活動期に入っているとしか思えません。やはりもう少し高いレベルでの警戒を呼びかけておくべきでした。
日本には世界中の活火山のうち、なんと1割が集中しています。面積で言えば日本など、全陸地の400分の1に過ぎないのに、不公平なものだと思います。
火山はプレートの境界附近に多く存在しているのですが、3つのプレートが押し合っている日本に多いのも道理なのでした。理の当然として地震も多く、このせいか最近、「世界でもっとも危険な都市」として東京が選ばれているランキングを見ました。最初見た時は「え?」と思ったのですが、街の治安とかそういうことではなくて、自然災害に見舞われる危険度を重視したランキングであったようです。このランキングでは2番目に危険なのは大阪だったのですが、たぶん火山分布図とかそんなものを見て作成したに違いありません。
もちろん、日本は自然災害も多いのですが、それだけに対策も高度になっており、例えば同じ規模の大地震が発生した場合には、実際の被害は他の国の10分の1以下であろうと思われます。東日本大震災クラスの地震が、外国のそれなりに人口の多い地域で発生したら、死者は10万人を下らなかったのではないでしょうか。
しかも東日本大震災の約2万人の死者の大部分は津波によるものであり、地震そのもので家が倒壊したりして亡くなった人はごくわずかでした。
ランキング作成者はどこの国の人か知りませんが、おそらくそんな点は計算に入れていなかったことでしょう。東京で自然災害に見舞われる可能性など、ニューヨークで強盗にホールドアップされる可能性に較べれば桁違いに低いはずです。都市における危険とは、一に治安、二に交通事故であって、自然災害などをおそれるのは筋違いとしか言いようがありません。
そうは言っても、世界の火山分布図を眺めると、こんなところによく住んでいるよなあ、と言いたくなるのもわかります。火山を表す赤い点が、日本列島に沿ってぎっしりと密集しているのを見れば、日本人自身でもぞっとすることでしょう。
温泉がやたらと多いのもこのおかげですが、これだけ危ない土地に住んでいるのだから、せめてそのくらいの反対給付はあってもバチはあたりますまい。
御嶽山ではついに死者も確認されたようで、どうなることでしょうか。
救急用品も充分とは思えない山小屋では、重傷者の手当てなども応急処置程度しかできないでしょうし、これからまだ増える可能性があります。
とにかく、できるだけ多くの人が無事下山できることを祈る次第です。
(2014.9.27.) |