ロールプレイングゲーム──RPGというのはずいぶんやってきたのですが、オンラインのRPG、いわゆるMMORPGというのはいちどもやったことがありません。 話には聞くのですが、どうもひとり遊び用のゲームとは勝手が違うようで、二の足を踏んでいます。様子がわからないから躊躇するという点の他に、はじめてしまうと自分が容易に抜けられなくなるのではないかという危惧も手伝います。いわゆるネット廃人というのは、MMORPGのプレイヤーに多いような印象もあります。 やったことがないのできちんと比較することもできませんけれども、まずMMORPGの場合、自分が主人公にはなれないという点がいちばんひとり遊び用と違っているような気がします。もちろんレベルをどんどん上げていけば注目されるようにはなるでしょうし、困難なクエストをクリアすれば人気も出るかもしれません。しかしやはり、それはゲームの主人公というのとは違うでしょう。 エンディングというものも、よく知りませんがたぶん無いのではないでしょうか。蜿蜒と、ゲームマスターが用意するクエストをはてしなくこなしてゆくだけの話だと思われます。鼻先にニンジンを釣り下げられて牽きまわれているようでもあります。 魔王を倒すなりなんなり、何かプレイヤーに共通の目的みたいなものがあればと思いますが、逆にそれが無いのがMMORPGの魅力であるのかもしれません。冒険者にならずに商売人になったりとか、そんな「自由さ」に惹かれてハマってしまう人が多いのでしょう。
いわば現実とは別の世界で、自分とは別の人間になって「生活」するみたいなところがMMORPGの醍醐味なのだろうと思います。きっと、好きな人にとっては、与えられたエンディングのために一本道で世界を駆け巡る「勇者」なんかは、あほらしく見えて仕方がないのではないでしょうか。
要するに、私がファミコン時代から長らく遊んできたRPGと、近年流行のMMORPGとは、おなじRPGというジャンルを名乗ってはいても、そもそもプレイする目的が異なっているように思えるのです。
MMORPGは、むしろテレビゲームとしてのRPGが出るより前の、会話型RPGに近いのかもしれません。テレビゲームが出はじめてからテーブルトークRPG、また略してTRPGなどと呼ばれるようになりましたけれども、実はそちらのほうが本来のロールプレイングゲーム、つまり「役を演じるゲーム」にほかならないわけです。
ずいぶん前のことになりますが、当時入っていた混声合唱団誠ぐみといういまは亡き合唱団の仲間と合宿に行ったとき、隣室の学生らしきグループが、何やら部屋にこもってひたすらにぶつぶつとしゃべり続けていました。私らが練習場に出かけて、しばらく歌の練習をおこない、戻ってきても、まだしゃべり続けています。しかも、どうも男ばかりのグループと思われるわりに、ときどき妙に甲高い声が聞こえてきたりします。最初は女の子が居るのかと思いましたが、よく聴くと女の声ではなくて、なんだか男が裏声でしゃべっているような感じなのでした。
彼らは何者なのだろう、としばらく不思議がっていましたが、ひとりの団員が
「あれって、ロールプレイングゲームをやってるんじゃないですかね」
と言い出しました。言われてみればどうやらそのようです。私がTRPGの現場に出くわしたのはそれがはじめてのことでした。
その後、TRPGに関連した本を読んだりして、どういうものであるのかをようやく理解しました。TRPGというのは、動作ひとつごとに、それが成功するか失敗するか、成功したとしてどんな効果があらわれるかなどの判定を、主にサイコロを振ることでおこなわなければならないため、とにかく時間のかかるゲームであるようでした。合宿のようにひとところに閉じこもってプレイするにふさわしい遊びなのは確かでしょう。隣室からときどき裏声がしていたのは、女性の役を演じていたものと思われます。
誠ぐみの仲間は、練習とは別に、ちょくちょく誰かの家に集まっては、いろんな遊びをするというアットホームな合唱団でもありました。私がこれまでただ一度だけ麻雀をしたのも彼らと一緒のときです。もっとも麻雀に詳しいメンバーが誰ひとり居なかったので、みんなでルールブックと首っ引きで役を狙ったり点数計算をしたりしていました。
そんなわけで、TRPGをやってみようじゃないかという話も出たことはあります。実際、誰だかが「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のスターターキットを買ってきたこともありました。ただ、TRPGに欠かせないゲームマスターを務められる者が誰も居ませんでした。通常、ゲームマスターというのは、一般プレイヤーとしてしばらくプレイして、ルールや進めかたを充分に理解してからはじめて務めるものとされています。しかも単にプレイヤーとして優秀なだけではダメで、当意即妙の話術に相当すぐれていなくてはなりませんし、ときどきとんでもないことをおっぱじめる他のプレイヤーをうまく統御できる器量も必要となります。ときにはみずからシナリオを作成したりもしなければなりません。
これはちょっと難しすぎるということになって、せっかく誰かが買ってきたD&Dも、お蔵入りになってしまいました。
で私は、もうちょっとルールを簡単にしたTRPGっぽいゲームを自分で作ってみようなどとも考えたのですけれども、何しろプレイヤーとしてすら参加したことがないのに、システムごと新しく創造するなどということができるわけもなく、いくつかの設定を考案したところで終わってしまいました。
その後、インターネットに参入し、チャットで話しているときなど、オフ会でTRPGをしようか、などという提案が出ることもありましたが、結局実現しないままで、私はいまだにTRPGをプレイしたことがありません。
しかし、ファミコンのRPGなどは、TRPGにおけるゲームマスターの役割とサイコロ判定をコンピュータが請け負い、本来は複数居るはずのプレイヤーを、コントローラーを手にしたひとりが集約して担当しているということなのだろう、と理解することはできました。
「ドラゴンクエスト」は、そういう「TRPGの代替品としてのコンピュータRPG」に、いわば長篇ドラマのようなストーリー、大目的と多種多様の伏線を導入した点が劃期的であったようです。
そしてファミコン──スーパーファミコン──プレイステーションと続くコンシューマー機の流れにおいて、ひとり遊び用のRPGが、本来の形のTRPGとは少々異なる方向に進化して行ったことも確かです。
その種のRPGに飽き足らなくなり、もっと本来のTRPGに近い形のゲームをコンピュータでできないかと考えたのが、MMORPGの誕生につながっているのではないかと私は認識しています。
私は上に書いたようにTRPGを遊んだことが無く、もっぱらテレビゲームでRPGに親しんだ人間ですので、MMORPGに馴染めない気がするのも無理はないのかもしれません。ゲームの中でくらい自分が主人公でありたいと思いますし、最終目的も無く遊んでいて面白いのだろうかと考えたりします。まあ双六のような「上がり」つまりエンディングの無い遊びというのはいくらでもあるわけで、もちろんやってみれば面白いのでしょうが、テレビゲーム系のRPGの面白さとは少し違うのだろうな、と想像しています。
MMORPGというのは、架空の物語と相性が良いようで、これを扱ったアニメなども多数作られています。
私が知る限り、MMORPGを扱った最初の作品は「.hack//」だったろうかと思います。まだMMORPGをよく知らない頃であったため、最初は物語の中で何が起こっているのかすらわかりませんでした。何回か見ているうちに、これはゲームの中の話であって、それぞれのキャラクターを操っているプレイヤーが他に存在するらしいということに気がつきました。最後のほうで、やたらと挑発的で喧嘩っ早いキャラを操っているのが本当の「ガキ」であるとわかったり、微妙に中性的な雰囲気をかもしていた主人公のリアルが実は女性だったとか判明したりして、ネットゲームの面白さみたいなものを若干実感することができました。
ちなみに「.hack//」はメディアミックス展開された作品で、プレイステーション用のゲームも作られましたが、このゲームはオンラインではありません。ただオンラインゲーム風のインターフェースになっていたり、「ゲーム内ゲーム」のような入れ子構造になっていたりしていました。確か、私がコンシューマー機で遊んだ最後のRPGです。
その後、MMORPGを扱ったアニメのたぐいはかなり大量に作られています。また最近アニメのネタ元になることの多いライトノベル界でも、題材としてかなり好まれていると言って良いでしょう。最近私が見たものでも、「ソードアート・オンライン」「オーバーロード」それから「ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?」等々。さらに「灰と幻想のグリムガル」などの搦め手も現れています。これは「RPGっぽい異世界へ転生させられた人々の物語」なのか「ログアウトできなくなったヴァーチャルMMORPGの物語(こちらだとすれば「ソードアート・オンライン」に近くなる)」なのか、はっきりしないままにどんどん進んで行ってしまう話なのでした。
制作者側としては、まるっきりのファンタジー世界を構築するよりも、「そういうゲーム」であるという設定にしておいたほうが楽だとも言えます。多少世界観の練り込みが甘くとも、「そういうゲーム」なんだから、としておけば批判を回避できるかもしれません。そこまで勘繰らないにしても、どこかに「現実世界」との接点を作っておいたほうが、作りやすいということがあるのではないでしょうか。
たぶん、今後ますますMMORPGを扱ったアニメやラノベは増えることと思われます。
私が今後MMORPGに手を染めることがあるかどうかは、なんとも言えません。老後暇になったらやってみようと思うかもしれませんが、私のような仕事だと、どうも齢をとればとるほど忙しくなるということが珍しくないようです。一旦ログインしたら数時間くらいは没頭するはめになりそうなオンラインゲームには近寄らないほうが無難ではないかというような気もします。
もう10年くらいしたら、パソコンやインターネットを自在に扱える世代が続々リタイアしはじめますから、高齢者向きのオンラインゲームといったものも開発されるでしょう。戦闘があっても、瞬発力などはあまり要求されず、じっくり考えながら進めてゆける形が良さそうですし、せいぜい1回1時間くらいのプレイでそこそこクエストがクリアできてしまうようなライトなものが望まれるだろうと思います。そんな時代になったら、私も少しやってみても良いかも……とは考えています。
(2016.4.30.)
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