忘れ得ぬことどもII

「仮面ライダー」の再放送

 東京MXテレビで、デジタルリマスター版の「仮面ライダー」の放送が開始されたので、第1回から見ています。このところ毎年「枠」として大量生産されている仮面ライダーではなく、無印というか、オリジナルというか、ともかく1971年から作られはじめた最初のライダーです。
 私は特撮もけっこう詳しいような顔で語ったりしていますが、実は自宅で、親公認で見ることのできた特撮はウルトラマンシリーズだけです。しかも第1期である「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」のリアルタイムは幼すぎて、そもそも家にテレビがあったかすら微妙です。セブンの頃はあっただろうと思いますが、住んでいたのが新潟県長岡で、当時は民放が新潟放送ただひとつしか無く、はたしてウルトラセブンを放映していたかどうかもわかりません。
 実際に私が「毎週」見ていたのは、「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラマンA」「ウルトラマンタロウ」の3番組だけでした。「ウルトラマンレオ」からは飛び飛びでときどき見ていただけになります。
 ウルトラマンと人気を二分していた「仮面ライダー」のほうは、家ではまったく見ていませんでした。少しあとになって、平日の夕方に再放送されるようになり、親の留守を盗んで見ていたくらいのものです。リアルタイムでは、従弟が泊まりに来たときにくらいしか見られませんでした。
 ただ、まったく情報が得られなかったわけではありません。当時の子供向け雑誌ではしばしば特集などが組まれていました。そういう雑誌が学級文庫などに置かれていることもあり、私は主にそういうところから情報を拾っていました。そしてそれを、少し後の再放送などで補完することで、なんとなくいろいろ知っているようなつもりになっていた感じです。
 いずれにしろ、ウルトラマンシリーズに較べると、仮面ライダーにはあまり馴染みが無かったのが事実です。

 しかしながら、敵が「ショッカー」という組織であり、首領ー大幹部ー怪人ー戦闘員という整然たるヒエラルキーを備えているあたりが、面白いと思いました。その後こういう形の敵組織が登場するヒーロー物は大増産されましたが、仮面ライダーは明らかにそのフォーマットを完成させた番組であったと思います。それまでも敵がなんらかの組織である番組はありましたが、首領ー怪人もしくは怪獣、とか、怪人ー手下、とかの、シンプルな形であることが普通でした。黄金バットロンブローゾも、月光仮面サタンの爪もそんな感じです。
 実はこの4階層のヒエラルキー、仮面ライダーの制作会社東映の十八番であった時代劇のフォーマットを応用したものだという説をどこかで読んだことがあります。つまり、悪代官とか幕府高官とかの「巨悪」が首領にあたり、悪徳商人の越後屋なんかが大幹部、その越後屋に「先生、やっちまってくだせえ」と頼まれる用心棒が怪人、そしてチャンバラで斬られ役として出てくるザコたちが戦闘員というわけです。なるほどと腑に落ちた気がしたものでした。初期の仮面ライダーの格闘も、大野剣友会などが担当しているし、時代劇との共通性は大いにあったわけです。
 約2年間という放映期間の長さもあいまって、「『仮面ライダー』的なヒーロー番組」のフォーマットは充分に形成されたと言うべきでしょう。同じ石ノ森章太郎原作による「人造人間キカイダー」「秘密戦隊ゴレンジャー」はもちろん、亜流的な特撮番組が雨後のタケノコのように作られたのでした。現在は「仮面ライダー枠」と「秘密戦隊枠」にほぼ収斂した感じですが、1970年代の乱立ぶりは眼を見張る、いや眼を覆うほどのものだったと記憶しています。
 その後、いろいろ本を読んだりもして、仮面ライダーについてはだいたいわかった気がしていましたし、「クウガ」にはじまる平成ライダー枠もかなり見て、まあウルトラマンほどではないにせよ、それなりに語れるように思っていました。
 とはいえ、オリジナルというべき無印ライダーをほとんど実見していないのは気になっていました。再放送を含め、私が見た記憶があるのは、確か死神博士地獄大使が両方出てきてケンカしていた回、それから最終話近くの何回かだけです。100話近い長大な物語の、ごく数滴をすくいとっただけで、特に最初の頃の話はほとんど知りませんでしたから、機会があれば見てみたいと思っていました。
 東京MXでリマスター版がはじまったのは良い機会で、私にとっては半世紀近く抱いていた気がかりを解消する想いです。

 先週、第1回「怪奇蜘蛛男」を、そして今週第2回「恐怖蝙蝠男」を見ました。サブタイトルには何やら江戸川乱歩臭が漂う感じで、演出的にもヒーロー物というよりもホラー感が強い気がします。その後Wikipediaを見てわかったのですが、無印「仮面ライダー」のサブタイトルには、そのほとんどに登場怪人の名前が読み込んであるのでした。「デビルマン」のサブタイトルと似たような趣きで、こんなことはまったく記憶していませんでした。
 本郷猛役・藤岡弘の若いこと。もちろん、まだ「、」はつけていません。バイクアクションはスタントを使わず自分でやっていたようですが、それが仇になってのちに大事故を起こします。藤岡弘、が撮影中の事故で重傷を負い、そのため急遽、本郷猛が国外のショッカーと戦うために不在となり、一文字隼人佐々木剛)の「2号ライダー」にバトンタッチした設定にした……ということは知っていたのですが、この交代劇は放送開始後1年くらい経ってからのことだったのだろうと思っていました。これまたWikipediaで調べると、なんと本郷猛はたったの1クール(13話)で降板しているのでした。「え? それだけ?」と声を上げてしまったほどの驚きです。
 そのわりには「仮面ライダー=本郷猛」というイメージが強いなと思ったのですが、藤岡氏は半年ほどのリハビリで現場復帰し、何度か一文字ライダーの危機を救うかたちで再登場し、5クール目に入った第53話以降、南米のショッカーと戦いに行った一文字に替わって、あらためて日本での戦いに臨むのでした。その後は、ときどき助っ人に訪れる一文字(仮面ライダー2号)と共闘するものの、最後まで本郷が主役として通されます。
 つまり、2年の放送期間のうち、1年目の大半が「2号」の戦いであり、2年目はほぼ「1号」の戦いである、という、ややこしい話になっていたのです。リアルタイムで毎週見ていた私と同世代の人々には常識だったかもしれませんが、私にとってはこれまた眼からウロコでした。
 そういえば、「少年マガジン」に連載されていた、石ノ森章太郎のコミック版(当初は「ぼくらマガジン」掲載)でも、本郷から一文字へのバトンタッチがありました。このコミック版は「原作」ではなく、かと言って単なる「コミカライズ」でもなく、テレビ放映と並行して石ノ森が執筆した、いわばメディアミックス作品です。序盤はテレビ版と同じような展開ですが、途中からまったく違う物語となってゆきます。
 コミック版では、本郷はショッカーの送り込んだ「12人ライダー」の襲撃により死亡し、その12人ライダーの一員であった一文字が、たまたま味方からのフレンドリーファイアで脳波調整装置を壊され、正気に戻って仮面ライダーの姿と志を受け継ぐというストーリーになっていました。
 コミック版は決して長くはなく、愛蔵版で少し分厚いとはいえ単行本1冊でおさまる分量でした。たぶん週刊連載として半年かそこらでしょう。テレビと同時進行で執筆していたコミック版の半ばにこの交代劇が描かれているということは、テレビではせいぜい1クールで交代していたと見抜くべきでした。

 ドアタマから立花藤兵衛が登場しているのを見て、懐かしさに胸がふるえる想いでした。立花藤兵衛は、こののち第一期最後の「仮面ライダーストロンガー」に至るまで登場し、歴代のライダーたちの正体を知る数少ない一般人、かつ全面的な支援者として活躍します。「ウルトラマン」で科学特捜隊ムラマツキャップを演じた故小林昭二氏の当たり役でした。最初はスナックのオーナーという設定だったというのも知りませんでした。
 本郷猛はショッカーで改造手術を受けたあと、先にショッカーに加わっていた恩師の緑川博士の手引きで脱出します。しかし追ってきた蜘蛛男に緑川博士は殺され、それを救おうとしていた本郷は、たまたまその場にやってきた緑川博士の娘ルリ子に目撃され、殺人犯に間違われます。このあたりはコミック版と同じストーリーになっていました。このルリ子が立花藤兵衛の経営するスナックでアルバイトをしていたという設定で、この辺の都合の良さはいささか苦笑モノです。まあ、30分番組としてはやむを得ないところでしょう。コミック版ではしばらくルリ子に疑われたままで苦悩する本郷が描かれますが、テレビでは第2話で早くも誤解が解けました。あんまりこの筋をひきずる気もなかったのでしょう。
 最初のこのころは、かの有名な「変身!」のかけ声も決めポーズも無く、決め技としてのライダーキックも不明瞭で(主題歌に「ライダージャンプ! ライダーキック!」という歌詞が入っているので、キックを決め技にするつもりはあったと思うのですが)、いろんなフォーマットが、まだまだ未整備であったことが窺われます。どのあたりからそれらのフォーマットが出来上がってゆくのか確かめてゆくのも楽しみです。
 そうそう、肋骨模様の黒タイツに全身を包み、「イー! イー!」と奇声を上げながら襲いかかってくるあの「ショッカー戦闘員」もまだ出てきません。戦闘員は居るのですが、普通の人間のイメージです。それに大幹部も存在していないようです。
 最初の頃は大幹部が居らず、怪人たちはそれぞれ別個に勝手に動いていたらしいという話は知っていました。上に挙げた「デビルマン」も同様で、最初の大幹部である魔将軍ザンニンが登場したのは5話めくらいでした。仮面ライダーもそのくらいかなと漠然と思っていたのですが、これもWikipediaで調べてびっくり。最初の2クールは大幹部など出てこないのです。第2クール最後の第26話に至って、ようやくゾル大佐が着任するのでした。
 「首領ー大幹部ー怪人ー戦闘員」という「仮面ライダー」で確立された敵組織ヒエラルキーが、本当に確立されるまでは、だいぶ長い時間が必要だったということなのかもしれません。先駆者には試行錯誤が不可欠であるようです。

 番組がはじまるところで、「本番組はオリジナリティを尊重して放映しております」ということわり書きが入ります。ヒーロー物のことわり書きというと、「超人バロム1」という番組で、冒頭に必ず

 ──このばんぐみにでてくるゾルゲというのはかくうのもので、じっさいのひととはかんけいありません

 という文章がブルーバックで出てきて、子供心になんだか怖かったものです。ゾルゲというのはバロム1と敵対する組織の名前で、なおかつ出てくる怪人たちも「クチビルゲ」とか「マツゲルゲ」とか、「……ルゲ」を末尾につけられたものが多いのでした。当時日本に住んでいたドイツ人のゾルゲさんが、バロム1のせいで子供が学校でいじめられると苦情を言い、それから毎回ことわり書きが入るようになったということです。
 「仮面ライダー」リマスター版に添えられたことわり書きは、そういうものではなく、明らかにいま放映するにあたってMXがつけたものです。
 昔のドラマやアニメには、現在の感覚で言うといささか不適切な言葉、放送自粛用語が出てくることがあるので、そのためだろうかと私は思いました。ちなみに放送自粛用語というのは放送禁止用語と間違えたわけではありません。放送を公的に「禁止」された用語というのは実はひとつも無いらしく、放送禁止用語と呼ばれているものはすべて、放送局が自分から使わないことにしているだけのことだそうです。「出演者が、放送局から」使用を禁止されているというのが放送禁止用語の実態らしいので、「放送局が、お上から」禁止されている(つまり「表現の自由」を国から制限されている)ように錯覚される「禁止用語」という表現は良くないと思い、私は放送自粛用語という言いかたを使うことにしました。
 その放送自粛用語のために、昔の番組を再放送する場合、あちこちに「ピー」音が入ることがあるのはご存じのとおりです。「ウルトラマン」でも、怪獣ジラースを飼っているマッドサイエンティストに向けて科特隊員が「ピー」と発言する箇所があってびっくりしたことがあります。言うまでもなく、「狂ってる」あるいは「気違いめ」といったセリフがついていたのでしょう。「どろろと百鬼丸」なんかは「ピー」だらけでわけがわからず、再放送不可能と言われました(最近リメイクされた「どろろ」とは違います)。「サスケ」も無理でしょう。こちらはいわゆる差別語満載だからと思われます。心ない言葉を投げつけられながら、それでも強く生きてゆく主人公の姿が感動を呼ぶはずなのですが、いまの視聴者は「心ない言葉」の時点でもう拒絶反応を起こしてしまうようです。いや、少なくとも放送局はそう考えています。
 ことわり書きを見て、「仮面ライダー」にもそういうのが多かったのだろうかと思いましたが、いまのところセリフにそれほど不穏当なものは見受けられません。
 このことについても、Wikiperiaを見たときに、ああなるほどと納得しました。
 仮面ライダーはショッカーによって肉体を改造された人間です。第2話までのいまはまだありませんが、もうしばらくすると、オープニングで毎回
 「仮面ライダー・本郷猛は改造人間である」
 といったナレーションが流れるようになり、私らの記憶にも刻みつけられています。
 この、肉体改造というコンセプトそのものが、不適切と見なされているらしいのでした。そういえば平成ライダーたちには、ひとりも「改造人間」は居ません。いずれも、何か超常的な力で変身できるようになっています。平成の制作者たちは、「改造人間」というコンセプトを避けるようになっていたのです。
 改造人間のどこか悪いのかよくわかりません。義手や義足をつけた人々を愚弄しているとでも言うのでしょうか。仮面ライダーがダメなら、「テラフォーマーズ」なんかもダメなことになりそうです。あれは人間に昆虫や動物の能力・特性を植えつけるという話で、コンセプトとしては初期の仮面ライダーとほとんど変わりません。
 とにかくある時期に、障碍者に配慮するという意味合いで、改造人間というのがNGになったらしいのです。障碍者の側からなんらかのクレームがあったのか、放送局が一方的に忖度したのか。いちばんありそうなのは、「障碍者への配慮が足りないとして、人権団体などからクレームがつけられた」というところかもしれません。
 それにしては同じ石ノ森作品の「サイボーグ009」はそのままなのが、またよくわかりません。「009」は何度もリメイクされ、平成になってからもほぼ同じ筋書きで作り直されていますけれども、こんなことわり書きがついていたことはありません。009の「サイボーグ」と仮面ライダーの「改造人間」とは、当時としてもほとんど同じ概念であるはずなのですが。
 改造人間という響きが良くなかったのでしょうか。あるいは、009は人間の形を保ったまま改造されているからOKだけれども、仮面ライダーの改造人間は「異形のもの」への改造だから(「怪人」と呼ばれている存在も実際には改造人間です)NGということなのでしょうか。まあ、こういったクレームや自粛に関して、整合性を求めても仕方がないのかもしれません。
 ともかく、変な注釈付きであっても、第1話から余さず再放送してくれるのなら願ったりで、子供の頃の切れ切れの記憶や、大人になってからいろいろ本を読んだりして補完したデータなどをたどりながら、ゆっくりと見直してゆこうと思っています。

(2019.10.10.)

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