今日(2019年10月22日)は、「即位礼正殿の儀の日」ということで、祝日となりました。御代替わりがおこなわれた今年限定の祝日です。 今上天皇が正式に即位するめでたい日なので、祝日にするのはわかりますが、平成の御代替わりのときにはこんなことはありませんでした。平成の場合は即位の儀と言っても、昭和天皇の喪中でもありましたので、そんなに華々しい祝祭ということはやらなかったのだろうか、とも思いましたが、今朝の新聞に、参列する各国首脳の一覧表が載っているのを見て、否応なく納得してしまいました。 これだけの世界各国の首脳たちが綺羅星のごとく参集するのでは、警備だけでもとてつもない労力と人手と費用を要するのは間違いありません。そんなときに、平日のように勤め人が行き来していては、都内は大変なことになってしまいます。あちこちで通行止めがあったり、迂回ルートを余儀なくされたり、その都度怒号が上がったりして、思うだに面倒くさいことになりそうです。それならば、思いきって休日にしてしまい、余計な人間があまりうろうろしないように家に居させるという判断は、悪くないものだったと思います。 平成の即位礼のとき、どのくらいの人数が集まったかはよく憶えていませんが、今回ほどのことはなかったでしょう。ましてやその前の昭和のときは、まだ飛行機すら一般化していませんでしたので、国外から列席した貴賓などはごく限られた数だったと思われます。 即位礼正殿の儀に招待した相手国は194ヶ国、うち183ヶ国が出席を表明しました。表明していない9ヶ国はまだ精査していませんが、要するに世界中のほとんどの国から、元首、王族、首相、有力な大臣などが来日することになるわけです。27ヶ国は駐日大使の出席となりますが、これは財政が厳しくて、本国の大物が日本にやってくるための費用が出せないというところが多いとか。 国連総会は、各国の国連大使という官僚が集まるだけの会議ですし、G20は限られた国の数しか集まりません。確かにG20は参加国のトップに近い人々が集まりますが、それは大統領・首相クラスであって、王様とか王族とかが出席するわけではありません。 その意味で言えば、今回日本につどう面々の華々しさは、世界でも空前のできごとと言えそうです。貴顕紳士などという言葉では追いつかないほどの、まさに綺羅星としか言いようのない人々が、文字どおり一堂に会したという、日本史上はもちろん、世界史上でも類を見ない一大イベントです。 わが皇室がこれほどまでに各国で敬愛されていることには、純粋に誇りを感じずには居られません。 いちどでも皇居に招待されて陛下と言葉を交わした各国首脳は、ほとんど洩れなく、陛下や皇室のファンになるとも言われます。フィリピンのドゥテルテ大統領などその最たるもので、あの暴れん坊イメージの強いドゥテルテ氏が、すっかり参ってしまったようでした。 今上陛下、上皇陛下のお人柄もさることながら、日本がここ70年以上、まったく外国と事を構えることなく、世界平和と世界の発展のために尽力してきたことが認められた結果でもあると思います。27人のノーベル賞受賞者という科学技術への貢献度も特筆すべきことですし、ODAや技術協力も惜しみなく進めてきました。惜しみなさ過ぎて中国の軍事技術に手を貸した形になってしまったこともありますが、おおむねプラスイメージで捉えられているのは確かです。そして近年は不充分とはいえ他国との軍事上の協力などもおこなうようになって、どの友軍からも、そして駐留地の住民からもたいへん高い評価を得ています。 こういう地道な積み重ねが、この世界史的な一日へと結集していたと言って良いでしょう。 残念ながら天気はあまり良くありませんでしたが、儀式はとどこおりなく進んだ模様です。特に、儀式開始直後に急に雲間が晴れて青空が顔を出し、空に虹が架かったのを見て、何やら神々しさを感じた人は多かったようです。 新聞に載っていた列席の面々を眺めて、そのきらびやかさにため息が出るほどでした。 まず、王様が11人と、王妃様が8人。 【アジア】 ・ワンチュク国王陛下・王妃陛下(ブータン) ・ボルキア国王陛下(ブルネイ) ・ノロドム・シハモニ国王陛下(カンボジア) ・アブドゥラ国王陛下・王妃陛下(マレーシア) 【オセアニア】 ・ツポウ国王陛下・王妃陛下(トンガ) 【ヨーロッパ】 ・フィリップ国王陛下・王妃陛下(ベルギー) ・ウィレム・アレクサンダー国王陛下・王妃陛下(オランダ) ・フェリペ6世国王陛下・王妃陛下(スペイン) ・グスタフ国王陛下(スウェーデン) 【アフリカ】 ・ムスワティ3世国王陛下・王妃陛下(エスワティニ) ・レツィエ3世国王陛下・王妃陛下(レソト) 王様ではないものの世襲君主にあたるのが3人。 【アジア】 ・タミーム首長殿下(カタール) 【ヨーロッパ】 ・アンリ大公殿下(ルクセンブルク) ・アルベール2世公殿下(モナコ) 王族が7人(お妃がひとり)。 【アジア】 ・サルマーン王太子殿下(バーレーン) ・フセイン王太子殿下(ヨルダン) 【ヨーロッパ】 ・フレデリック王太子殿下・王太子妃殿下(デンマーク) ・アロイス太子殿下(リヒテンシュタイン) ・ホーコン王太子殿下(ノルウェー) ・チャールズ王太子殿下(英国) 【アフリカ】 ・ムーレイ・ラシッド王子殿下(モロッコ) ちなみに、日本では、外務省発表も含め、君主の後継者のことを「皇太子」と記していますが、皇太子というのはエンペラー格の君主の後継者のことですので、キングの後継者としては正しくありません。私の判断で「王太子」と表記しました。リヒテンシュタインは公国、つまりその君主は公爵ですので、アロイス殿下は王太子でもなく、ここでは単に太子と書いておきました。 なお天皇のことを、どれだけ注意しても日王と書く韓国では、皇太子のことを王世子と書いています。世子となると、太子よりももっと格下で、「皇帝から王位を戴いている諸侯の後継者」ということになります。つまり韓国で言う日王というのは、単に日本の君主という意味ではなく、「中華皇帝から日本国王に任ぜられた夷狄の首長」というほどの意味合いであって、国際儀礼上きわめて非礼な呼称と言わねばなりません。私は「日王」表記まではまだ韓国の強がりとしてぎりぎり許容していましたが、最近の御代替わりに関して、皇太子のことを王世子と書いているのを見て、その明白すぎる悪意を実感せざるを得ませんでした。せめて「王太子」であればまだ許せたのですが。 李氏朝鮮の王様は、まさしく「中華皇帝から朝鮮国王に任ぜられた」という形をとっていましたから、当然その後継者は「太子」ではなく「世子」でした。日本の皇太子を王世子呼ばわりしたのは、その習慣からだとは思うのですが、それにしても日本に対しては国際儀礼など無視しても良いと考えているのは確実です。この国とは、もうまともにはつきあえないな、と思います。 「大統領」が来訪した国もたくさんあります。ドイツからもシュタインマイヤー大統領夫妻が来訪しましたが、ドイツの大統領というのはあんまり馴染みがない気がします。コール氏、メルケル氏など、首相のほうが存在感がありますね。政治を主導するのは首相で、大統領は国の象徴としてこういう儀礼的な場に出るのが仕事なのかもしれません。首相が事実上の官房長官みたいなものに過ぎないフランスとは逆です。なおフランスからは大統領でも首相でもなく、元大統領のサルコジ氏が列席しました。先般亡くなった、日本好きで有名なシラク元大統領が存命であれば、間違いなく出席したがったことでしょうが。 面白い出席者といえば、キプロスから列席のアナスタシアドゥ女史、ガーナからのアクフォ=アド女史で、このおふたかたは大統領夫人です。トップレディだけ出席というのも珍しいケースでしょう。実は旦那を裏から操る「影の権力者」なのだったりして。 USAからの出席者はチャオ運輸長官で、これはいささか低い地位でした。トランプ大統領がすでに国賓として来ているし、他の大物もけっこう日本にはやってきているからということだったのかもしれませんが、こういう場こそ外交の晴れ舞台だという感覚がわからなかったのは、トランプ氏の少々素人っぽい点とも言えそうです。ただ、チャオ長官は台湾の出身なので、即位の儀に日本政府が招待できなかった台湾の蔡英文総統の代わりに指名されたという噂もあり、だとすればなかなか粋な配慮だったとも考えられます。 隣のカナダからは、最高裁判所長官のワグナー氏が出席しました。三権の長ではありますからそれなりの大物ではあるでしょうが、司法のトップというのは珍しい人選です。 オセアニアは「総督」という肩書きの人が多いのは、委任統治領だったりした国が多かったからでしょうか。オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、ソロモン諸島からの出席者が総督や総督夫妻でした。クック諸島はさらに面白いことに、「女王名代」のマースターズ氏夫妻が出席しています。英連邦だからなのでしょうが、総督でも首相でもなく「名代」というのには驚きました。一方、インドの元首も英女王エリザベス2世陛下だとばかり思っていたのですが、現在はコピンド大統領という人だそうで、失礼いたしました。 いろんな肩書きの大臣が出席した国もあります。外務大臣とか内務大臣といったありきたりなのではなく、面白いのを探してみると、キリバスのテカイアラインフラ・持続可能エネルギー大臣、スイスのアムヘルト国防・市民防衛・スポーツ大臣、エジプトのエルアナーニ考古大臣、セネガルのホットゥ経済・計画・協力大臣、南スーダンのクオル・マニャン・ジュック国防・退役軍人担当大臣、ウガンダのカムントゥ観光・野生動植物・遺跡大臣、タンザニアのムクチカ大統領府付公共サービス・行政機能強化担当大臣などが眼につきました。また外務大臣でも他にいろんな大臣を兼任している人も居ます。国によっては、なかなか人材が居ないのだろうな、などと想像してしまいます。ツバルのコフェ法務・通信・外務大臣など、字面だけ見るとものすごい権限を掌握していそうですが、ひとりの人間がこれだけの役職を兼任せざるを得ないほどに、仕事を任せられる人が少ないのでしょう。 誰だったか、そういう小国の政治顧問なんかしてみたら面白そうだ、と書いていた作家が居たっけ。そうかもしれませんが、失敗した場合に問答無用で処刑されそうでもあります。 それにしてもいろんな肩書きの大臣や長官が居るものだと、しばし紙面を見て微笑を禁じ得ませんでした。 繰り返しますが、これだけの大物が一堂に会するのは前代未聞のことです。これらの国から官僚か、首相クラス、あるいはいいところ大統領までが集まるということはありますが、王様や王族がそういうところに姿を現すことはまずありません。
国同士の関係性によっては、隣国の王様の即位式や戴冠式に王様自身が出席するのは、なんだかこちらが格下のようで気に入らない、なんてことを考えてしまう場合もあるかもしれません。 しかし、日本の天皇の即位式であれば、そういったわだかまりはほとんど無かったように思われます。11人もの王様、王の称号は無くともそのほか3人の世襲君主(事実上の国王)が、喜んでみずからおみ足を運ばれるというのは、航空網の発達で行き来が簡単になったからとはいえ、驚くべきことです。日本の天皇陛下のためならご自身がご出駕なさるも苦しゅうない、と考える王様たちが、世界にそんなにも居られるということに、私たちは深く感動しなければなりません。 これほどの人々に祝福されて即位した今上陛下の御代を、暗いものにしてはいけない、と日本人みんなが肝に銘じるべきなのではないでしょうか。 (2019.10.22.) |