忘れ得ぬことどもII

多重国籍

 しばらく前民進党党首蓮舫氏の多重国籍について書きました。数ヶ月前のことだったような気がしていたのですが、日付を見たら去年の10月9日のことでした。そんな長いことグダグダやっていたのかと驚きますが、このたびようやく関連資料の開示に至りました。
 戸籍謄本の一部、台湾籍の離脱証明書、台湾のパスポートなどのコピーを開示したとのことです。国籍選択宣言日は去年(2016年)の10月7日、つまり私が上記のエントリーを書く2日前のことでした。
 国籍の付与に関しては、属地主義を採っている国と属人主義を採っている国があるため、子供が二重国籍を持っているということはちょくちょくあります。日本人の両親が仕事などの都合でUSAに住んでいるときに生まれた子供は、USAの国内で生まれたということで属地主義のUSAの国籍を取得できますし、一方日本人の両親から生まれたということで属人主義の日本の国籍も取得できます。また片親が属人主義の国の出身であれば、日本で生まれた子供でも最初から両方の国籍を持つことができます。
 ただし二重国籍が許されるのは日本では子供だけで、複数の国籍を持つ者は22歳までにいずれかの国籍を選ばなければなりません。そして、日本国籍を選ぶ場合には他の国の国籍を離脱する必要があります。つまり、22歳を過ぎて複数の国籍を持っていた場合、日本ではそれは違法であるということになります。
 さて蓮舫氏の場合、本人の言を信ずるならば17歳のときに日本国籍を取得したそうです。それが去年の10月7日に国籍選択宣言をしたわけですから、蓮舫氏は22歳からそのときまで27年間ほど、法律違反状態であったと判断されます。

 本人は台湾籍をとっくに離脱したとばかり思っていたのかもしれません。実際、初当選した2004年の公報には、
 「1985年、台湾籍から帰化」
 と書かれていたそうです。
 蓮舫氏が意図的に嘘をついたとまでは私は思っていません。たぶん、日本国籍を取得したときに、自動的に台湾籍から脱けるものだと勘違いしていたのではないかと思います。誰も気づかないままに27年が過ぎてしまったのでしょう。日本に生まれ育っていて、自分の国籍を証明する必要に迫られるという事態には、滅多に出くわすものでもありません。確認しなかったのはうかつでしたが、たいていの場合はそれで済んでしまいます。知らずに多重国籍になっている人というのは、調べてみれば意外と多いかもしれません。
 しかし、公報に「1985年、台湾籍から帰化」と載せていたというのは、いかに自覚が無かったとしても結果的に虚偽を表明したことになります。これはやはり、政治家としてはまずい事態でしょう。
 時系列を考えれば、民進党の党首に選ばれ、国籍問題が取り沙汰されて、あわてて調べてみたらまだ台湾籍を脱けていなかったことが判明し、なんとか党首就任日(10月15日)の前に国籍選択の手続きを終えた、という経緯だったのではないかと考えられます。
 それならそれで、すぐさま記者会見して洗いざらい事情を話し、自分のうかつさを詫びるなどの行動をしていれば、そんなに印象も悪くならなかったように思われます。もちろん違法な多重国籍状態で国会議員をやっていたという点をつっこまれることはあったでしょうが、その時点では国会議員は日本国籍を持つ者であれば良く、他の国の国籍を併せ持っていた場合については特に規定が無かった(というより、そういう事態を想定していなかった)のですから、真摯に反省の色を見せておけば、そんなに責められることもなかったのではないでしょうか。
 実際、自民党でも小野田紀美代議士がUSAとの二重国籍であったことが判明し、すぐに離脱手続きをとって謝罪しました。これについては報道などもほとんど何も論評していませんでしたし、小野田代議士は議員辞職をすることもなくいまでも代議士を続けています。
 ところが、蓮舫氏は口を濁し続け、あいまいな態度をとり続けました。この理由がさっぱりわからないのです。
 おかげで、野党党首として蓮舫氏がどれほど舌鋒鋭く安倍首相や政府与党に斬り込んでも、どうにも説得力に欠けることになってしまっていました。自分の国籍問題をあいまいにしておいて、他人を糾弾する資格があるのかというわけです。
 「政府は説明責任を充分に果たしていただきたい」
 などと言えば、ネットではたちまち
 「おまえの国籍の説明責任はどうした」
 などと揶揄される有様だったのです。

 先日の都議選では、自民党が大敗を喫しましたが、民進党は実はそれ以上の惨敗でした。15議席あったものが、3分の1の5議席まで減ってしまったのですから、これはもう壊滅的と言っても差し支えありません。15議席中8人は都民ファーストに移って当選しているので、報道では2議席減とされていましたが、実際には10議席とりこぼしたのと変わりません。民進党は、自民党都議が議席を減らした分の受け皿には、まったくなれなかったのです。
 党の中にも、これはまずいと思いはじめた連中が居たのでしょう。党首の国籍問題がうやむやのままであることも人々の信頼を得られない原因であろうというわけで、そのあたりをはっきりさせるべきだと蓮舫氏に進言する幹部が増えてきたのだと思われます。
 かくして、多重国籍問題が持ち上がってから9ヶ月を経て、ようやく蓮舫氏は関係資料の開示に応じる意思を明らかにしました。
 すると、不思議な現象が起こりました。
 いわゆるリベラルを称する層から、頻々と、蓮舫氏の戸籍(国籍関係資料はさしあたって「戸籍謄本」と考えられたようです)開示に反対する声が挙がりはじめたのでした。
 なんだか、

 ──頼むからそんなことはしないでくれ。

 とでも言うような感じで、彼らにとって何がそんなに都合が悪いのか見当もつきません。
 表向きの理由は例によって「差別を助長する」という、「いわゆるリベラル層」お得意の口実です。国会議員がその資格要件のひとつである国籍を明らかにすることがなぜ差別を助長することになるのか、わけがわかりません。「子供の供の字は差別を助長するのでNG」「六曜の表記は差別を助長するのでNG」というのと同じくらい謎な論理です。
 たぶん彼らの論理としては、蓮舫氏が戸籍開示に「追い込まれた」のは彼らの言う「差別主義者」の圧力のためであり、「差別主義者」たちはこれに味をしめてありとあらゆる場で戸籍開示を求めることになり、そうすると知られたくない出自を「差別主義者」に対し無理矢理明らかにさせられることになり、当然ながら差別の原因になる……ということなのでしょう。そういえば、運転免許証に本籍地が明示されなくなったのも、この論理による執拗な抗議があったからであるようです。
 どう考えても途方もない拡大解釈で、「戦争法(=安保法案)が通ったらすぐにでも徴兵制が布かれる」「共謀罪(=テロ等準備罪)が通ったら主婦が井戸端会議をしていても逮捕される」といった彼らの常套のロジックそのままです。
 そもそも現代において、隠さなければならない「出自」などあるものでしょうか。少し前まで「被差別部落」という問題がありましたが、現在では少なくとも法規上の差別はまったくありませんし、部落出身者であってもその気があれば代議士にでも知事にでもなれるわけで、ことさらに隠さなければならない事実とは思われません。
 となると、彼らが問題とするのは、やはり在日外国人のことなのだろうと考えざるを得ません。在日外国人の中で、出自を問われて困る……つまり外見は日本人とそう違わず、なおかつ外国籍のままで日本人に紛れこみたいと考えている連中は、と考えると、これはもう答えは明らかでしょう。
 そもそも蓮舫氏の問題は国籍法とか代議士の資格要件とかに違反しているかどうかという問題に過ぎないのに、なぜか差別差別と騒ぎ立てるのも、その連中ならばまあ納得です。
 テレビで
 「国会議員が二重国籍を持つなどということは、欧米では普通のことで、なんら問題ではない」
 と主張するコメンテーターも居ました。欧米の話ではなくて、日本の法に照らしてどうなのかということなのですが。
 その矢先、オーストラリアで、ニュージーランドとの二重国籍だった国会議員が辞職したというニュースが報じられました。オーストラリアは欧米ではないにせよ、英連邦の一員であり、まず欧米に準ずると見て良いでしょう。議員の二重国籍は、欧米でもちっとも普通ではなかったのでした。なんだか狙ってやったみたいなタイミングで、大笑いした人も多かったようです。
 去年いちはやく二重国籍を認めて国籍選択宣言をした小野田紀美代議士は、
 「誰も差別や出自の話などしていない。違法かどうかだ」
 とコメントしていました。みずからも渦中にあった小野田氏のコメントは重いと言えます。それに、蓮舫氏の戸籍開示で差別だなんだと騒いでいる連中は、小野田氏のときにはなんにも言わず、完全スルー状態でした。自民党代議士だったからどうでも良かったのか、それとも小野田氏の場合はUSAだったから問題視するに価しないと判断したのか。いずれにしてもダブルスタンダードのそしりを免れません。後者の理由であれば、「在日韓国人は自分の国へ帰れ」と叫ぶのは天も許さざるヘイトスピーチだけれども、沖縄の基地で「ヤンキーゴーホーム」と叫ぶのは全然ヘイトスピーチには当たらない、と平気な顔で言ってのける神経とぴったり一致していると言えるでしょう。

 なるべくものごとを公平に見たいと思っているので、蓮舫氏のふるまいについてもできるだけ悪意では解釈したくないと考え、「勘違い」していたのだろう、と書きましたが、明らかに日本国籍を取得した17歳よりもあとの雑誌インタビューなどで、まだ台湾籍を持っているかのような発言があったり、
 「在日の中国国籍の者として」
 という発言があったりしたようなので、この点についてはきちんと申し開きをして貰いたいものです。
 特に「中国国籍」発言は穏やかでありません。台湾は正式には中華民国ですから、台湾籍のことをそう言ってしまったのだろうと思いたいところではありますが、ひょっとすると「中華人民共和国」の国籍も持っているのでは?……と疑われても仕方のないところです。蓮舫氏は学業のため、しばらく北京に滞在したこともありました。
 実際、9ヶ月も経って「台湾籍離脱」を証明しようとするのは不自然で、これは実はもうひとつの国籍「中国国籍」を隠すための目くらましなのではあるまいか、という憶測も流れています。つまり蓮舫氏は二重国籍どころか三重国籍であったのではないかという話になっているのです。大事なことを9ヶ月もあいまいなままにしておいた不徳のいたすところとしか言いようがありません。
 実は蓮舫氏自身は、そう大事なこととは思っていなかったのではないか、という推測から、冒頭に挙げたエントリーでは、中国人の国籍意識の低さとか、中国が歴史的に外国人を要職に就けることに抵抗がない性質であったことを例証しています。つまり、その時点で蓮舫氏は、「何が悪いのだか本気でわからない」状態だったかもしれないとも思ったのですけれども、すぐさま台湾籍離脱の手続きをとったりしている以上、それも怪しくなってきました。やはり「まずいこと」であるという認識はあったとしか思えません。
 それならなぜ9ヶ月も放っておいたのかということになりますが、これはフェードアウトを狙っていたという解釈しか思いつきません。そのうちみんな忘れるだろうと考えていたのでしょうか。だとすれば、やはり中国人特有の国籍意識の低さによるものでしょう。そんな「つまらないこと」を日本人がいつまでも槍玉に上げ続けるとは思っていなかったのではないでしょうか。

 民進党の支持率は、いちばん好意的な調査でも8%ほど、普通の調査なら5%ほどまで落ち込んでいます。
 今回党首が「説明責任を果たした」から支持率が回復するのではないか、と希望的観測を打ち上げる向きもあったようですが、有権者の大半は、かつての社会党以上に「なんでも反対党」と堕してしまった民進党には、ほとんどなんの期待も抱いていないというのが正しいところではないかと思います。民主党政権時代の、あのどこにも出口が無く感じられるような、日一日と日本全体が削りとられてゆくような閉塞感はもうこりごりという人も多いでしょう。
 はっきり言って、蓮舫氏の国籍問題などは、もう些末な事案であって、それによって民進党の支持率が劇的に上がるなんてことは無さそうです。
 とはいえ、今回のことは蓮舫氏という一個人というよりも、日本人全体が国籍というものについてあらためて考えるきっかけにはなったと思います。
 たぶんいままでは、外国人と結婚するとかそうした契機でもないと、国籍ということについてまじめに考える機会などは無かったと思うのです。日本の国籍を持ち、日本のパスポートを所持しているということのありがたさは、海外へ行くと一目瞭然なのですが、日本社会で生活している分には、なかなか実感することができません。
 その意味では、良い機会であったと思うべきでしょう。

(2017.7.18.)

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